市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

iKizuku
働く天使ママコミュニティ [イキヅク]

優しさが“イキヅク”社会を目指して

流産、死産、人工死産、新生児死亡、人工妊娠中絶などで、赤ちゃんとのお別れ(ペリネイタルロス)を経験した、働く女性(働く天使ママ)のためのピアサポートグループの共同代表、なおさんと、よしみさんにお話しをうかがいました。


なおさんのお話

「天使ママ」とは、ペリネイタルロスを経験した母親のことで、亡くなった赤ちゃんを「天使」と表現しています。SNSなどで経験者同士がつながるキーワードとなっています。私が「天使ママ」となったのは2017年です。初めての妊娠で、とても嬉しかったのですが、つわりがひどく、会社に行けないほどでした。それまでは「ギリギリまでしっかり働いて、産休育休に入って…」と考えていたのが、最初から想像と違ってしまい、不安と戸惑いから始まった妊娠でした。

つわりがようやく落ち着いた頃、出血があり、慌てて病院に行くと破水していて「赤ちゃんが出てきそうになっています」と言われました。その場で入院が決まり、職場に連絡して、そこからバタバタ…と。検査の結果「母体に何かしら感染が広がり、羊膜が破れて破水したのだろう」とのことでした。その時点では18週で、赤ちゃんが生まれても生きていける22-23週までは長すぎ、母体にも感染が広がっていて危険なため、医師から「今回はあきらめましょう」と言われました。

経験豊富な医師の言葉に、「仕方がないのだろう」と思う一方で「もしかしたら…」という気持ちもありました。結果的には人工死産の決断をしました。

妊娠12週を超えての死産は、労働基準法の産後休業(産休)の対象となります。私は18週での死産でしたので、そのまま産休に入りました。当初は、自分が産休の対象になると知りませんでした。社内の制度を調べると、「妊娠・出産に関する制度」や「病気のとき」の情報はありましたが、自分がどれに当たるのかわかりません。やっとのことで、小さな字で「死産も産休の対象」と書かれている注記を見つけました。この経験は今の活動にもつながっています。制度があっても、つらい時に探すのはとても大変です。わかりやすい情報の発信が必要だと感じました。のちに会社にこの経験を伝え、「妊娠・出産に関する制度」のところに「流産・死産した場合」を載せてもらいました。

産休に入った後も大変でした。休んで迷惑をかけたし、赤ちゃんも無事に産めなかった。そんな私は「仕事を頑張らなければ」「仕事まで失うわけにいかない」と焦り、同時に「次の妊娠こそは」、という想いもあって。そのためにはどうしたらよいかと、必死に情報を求めましたが、体験談を見つけても、そこに「仕事に戻る」視点はありません。「産後の身体ケア」とあっても、それは無事出産した身体についてでした。

不安でいっぱいの中、産休後に一度復職しましたが、仕事が手につかず、食事ものどを通らなくなってしまいました。うつ病と診断されて休職することになり、さらに3ヶ月後にようやく復職しました。

少しずつ仕事に戻りながら、「妊活」を再開し、再び妊娠することができました。でもまた、つわりがひどい。さらにメンタルの不調を抱えながらの妊娠でしたので不安で不安で…、結果的に産前休業を待たずに休職し、そのまま出産しました。産後も体調が悪く、最初の3か月間は、夫と義母が育児をしてくれました。でも本当であれば、自分の手で育てたかったし、母乳をあげたかったという気持ちがあります。

もし、あの時私に情報や知識があったら、例えば「グリーフ」という、大切な人との死別などから起きる心と体の反応を知っていれば、自分に起きていることをもう少し正しく把握できて、ここまで心身が悪くならずに済んだのではないかと思います。そのため、多くの人に情報を届けたいと思い、SNSでの発信を始めました。そしてよしみさんと出会い、活動を一緒に立ち上げました。


よしみさんのお話

私は、2016年から2019年の間に3度の、流・死産を経験しています。1度目が心拍確認後の6週での初期流産。2度目が一卵性の双子を1人死産、1人早産。3度目は先天性の障害が見つかり、15週で人工死産を経験しています。

3度目の経験時、私は産休の対象とは知らず、退院後にいつまで休めばいいか、いつ復帰すべきかを悩んでいました。ネットで検索したところ、12週以降の流産も産休の対象となるという情報を見つけました。上司に問い合わせたところ、労務担当に確認してくださり、8週間休まなければならないことがわかりました。なぜこんな大事なことが知られていないのだろうと疑問を持ちました。当初から産休の対象だとわかっていれば、復帰時期についてあんなに悩む必要はなかったと思うのです。

職場復帰後は、毎日、仮面を着けて会社で過ごしているような感覚でした。仕事の遅れた分を取り戻さなきゃと、頑張ろうとするのですが、頑張れない。実際は会社に行くだけで、精一杯でした。思うように働けない自分に、私どこかおかしくなってしまったのかな、と思ったりもしました。当時を振り返ると、復帰前に、誰がどこまで・何を知っているのかを事前に確認しておけばよかったと思います。トイレで会った同僚に「長く休んでいたけど、大丈夫?」と聞かれて、この人はどこまで知っているのだろう…と回答に苦労することもありました。他にも「○○さん、妊娠したんだって」という会話がグサッと胸に刺さったりもしました。いつ傷つくかわからないので、同僚とランチに行くのも避けるようになっていました。

それでも復帰後2~3ヶ月は一生懸命会社に行き仕事をしていました。しかし、出産予定日を向けた予定日の夜、布団に入ると「今日、出産予定日だったんだ…」「私、本当に子どもを亡くしたんだ」という気持ちが押し寄せてきました。その頃はグリーフにおける記念日反応についても知らず、子どもを失ったことをもう1回突きつけられました。

職場の中にも、流・死産経験者がいると思うのです。できることなら先輩方は、どのようにこの経験と向き合い、今後のキャリアや次の妊娠を考えていったのかを知りたかった。しかし、社会でもタブー視されるテーマですし、私自身もその話題に触れられただけで涙が出てきてしまうので、周りに相談できる状況ではありませんでした。

センシティブな話題だからこそ、誰も発信していなくて。ネットで探しても、流・死産直後の経験談は出てきても、職場復帰や、どう働いているかという情報は全然ありません。そのため少しでも情報が集まればと、ハッシュタグ「#働く天使ママ」を作り投稿し始めました。最初にそのハッシュタグを使ってくれたのがなおさんでした。

今は、この3度の経験をiKizukuの活動を通して活かせたらいいなと思っています。


iKizukuの活動

よしみさん(以下、Y) iKizukuでは、3つの活動をしています。①座談会・勉強会などの開催、②情報提供、③社会(特に職場)に向けての啓発活動です。座談会はオンラインで、これまで、初期流産、人工流・死産、臨月死産、地上にお子さんがいる会などのテーマで開催しました。地上にお子さんがいる会のときは、画面にお子さんが映ったり、PC越しに赤ちゃんの声が聞こえても大丈夫です。

なおさん(以下、N) 赤ちゃんを亡くした状況や、地上にお子さんがいるか・いないかなどで、悩みや辛さの違いがあるため、場を分けることで気持ちを話しやすく、わかちあいやすくなります。

Y 年代別でも開催したことがあります。20代では、妊娠や出産している人が周りにいなかったり、「次があるでしょ」と言われて傷つく方も少なくありません。30代では、仕事で昇格する時期だったり、同僚との関係などもありますし、40代では、妊娠のタイムリミットが迫る中での経験になる。

また、業界・職種・役職による違いもあります。例えば運輸業界であれば、妊娠が判明した時点で職場への報告が必要なため、初期流産の場合も職場に報告しなければありません。保育士など子どもと接する現場で働く方の辛さ、管理職の場合、部下の妊娠報告を聞く辛さもあります。

N 最近は死産後の産休中に参加される方が多いです。相談先がないからだと思います。自治体での相談窓口がありますが、いわゆる「子育て」の悩みではないし、職場でもペリネイタルロスを想定した制度があるところはほとんどないと思います。


経験のその後を発信する

N 私が経験した当時、赤ちゃんとのお別れについてSNSでその気持ちを発信している人がいても、次の赤ちゃんが生まれたら、発信が止まりました。メディアで取り上げられても「辛い経験だったけど、無事に次の赤ちゃんが生まれてよかった」というストーリーしかない。そういう「切り取られ方」が多くて、その後の仕事や生活の困難にどう対応したかが語られない。

病院でのグリーフケアがあっても、退院すると相談先がなくなります。しかし、そこからがむしろ本番です。それを、これまでは個人でどうにかしてきたという状況です。

経験者として「その後」を発信していかないといけないと思っています。「その後」の大事な視点の一つが、「復職して働くこと」です。

Y iKizukuで行ったアンケートや、座談会などでお話を聞く中で、どれくらい休むべきなのか、復職しても大丈夫なのかという不安、復職時の周囲とのコミュニケーションやその後の働き方の悩みなどを抱えていることがわかりました。その参考にしてもらおうと、私達が経験者にインタビューをし、体験談としてサイトで発信をしています。また、関連制度についてや、職場復帰時の周囲の方とのコミュニケーションに関するポイントなども紹介しています。当事者に向けてだけでなく、職場の方に向けても。本人も職場に自分の状態や希望をどう伝えたら良いかわからないし、周囲の方も、センシティブな話題なので、根掘り葉掘り聞くことがハラスメントになるのではと思って、どう聞いたらいいかわからない。または、良かれと思ってかけた言葉で相手を傷つけてしまうこともある。そういった難しさはあると思います。

N お互いにペリネイタルロスの知識、制度などの情報を持った上で、コミュニケーションをとってほしいと思っています。「働く天使ママ」と言っても、本人の状態や希望することは、一人ひとり違います。当事者も「察してほしい」と思いがちですが、自分を守るためにも「伝える」ことは大事だと思います。そのために使える情報や体験談などをiKizukuで発信していきたいです。

職場の方は、どう対応したらいいの? と思われるかもしれません。でも、何か特別な「心のケア」をしてほしいということではなく、休みなどの制度の紹介や、働き方の配慮など、本人がまた本人らしく働ける為の「サポート」をしてもらえたら良いのではと思います。


ペリネイタルロスは社会の課題

N 流産や死産でも「出産」です。特に妊娠12週以降では、経腟分娩や帝王切開で赤ちゃんを「出産」します。その為、通常の出産と同じように、法定の産後休業の対象となり、企業は休ませなければなりません。しかし、このことが知られておらず、iKizukuで行ったアンケートでは産休対象であるのに取らなかった方が17%いました。

一方、12週未満の流産は法定休業はないので、自分で判断しなければなりません。アンケートでは、「その日」に出勤している人もいれば、翌日から出勤している人もいました。産後の心身のケアが疎かのまま職場に復帰することは、本人にとっても職場にとっても、心身の不調のリスク、仕事のパフォーマンスなどの観点からも問題だと思います。さらには、職場に戻れず退職した方が10%ほどいました。企業にとっても社員の退職は損失だと思います。現在、死産率は2%程度と言われており、50人に一人の割合で経験していることになる。また、流産率は20-25%とも言われ、想像以上に多いものです。人生百年時代の今、ライフイベントで何かがあっても、戻ってこられる・働き続けられる社会が求められていると思います。

Y 「切れ目のない支援」と言われますが、実際には妊娠中と産後の支援の中にペリネイタルロスが抜け落ちています。ロス後に子育てやキャリアに悩みがあっても、母子保健、子育て支援、キャリア支援、とバラバラです。女性の人生、生活をトータルで考えることが大事だと思いますし、きょうだいを亡くした子どものグリーフなど、いろいろな視点があります。私たちも、専門家、自治体、他の女性の支援団体との連携も必要だと思っているところです。

それから、ペリネイタルロスは男性にも関係のあることです。父親も赤ちゃんを亡くしてつらいのですが、周りからは「奥さんを支えて頑張れ」と言われて悲しませてもらえなかったという声があります。12週以降の流・死産の場合、死産届を出して、火葬もしないといけないので、火葬許可証をもらって、葬儀屋さんと調整して、日取りなどを決めることになる。女性は入院していることが多いので、これらは夫、男性が対応することが多いのです。男性も大切な家族を亡くした当事者なので、ペリネイタルロスは家族のこと、社会の課題として受け止められるようになってほしいです。


それぞれの経験を受け止め柔軟に働ける社会に

N ペリネイタルロスを経験すると、居場所を失ったと感じることがあります。母親になれなかった、赤ちゃんのことを話せる場がない、子どもがいる友人と会えなくなってしまった、など…そんな時、職場というのは大切な居場所の一つです。

Y 私は、自分たちが経験したつらさを、子世代には引き継がせたくないという想いが強いです。それぞれの経験を受け止め、ペリネイタルロスなど、様々なライフイベントがあっても柔軟に働ける社会になってほしいです。


◯iKizuku 働く天使ママコミュニティイキヅク

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(キーワード)ペリネイタルロス、働く天使ママ(流産・死産・新生児死亡・人工死産・人工妊娠中絶・赤ちゃんの喪失)

iKizukuは「働く天使ママ」のためのピアサポートグループ(自助グループ)です。ペリネイタルロス(赤ちゃんとのお別れ)を経験した働く女性=「働く天使ママ」のサポートを通じて、思いやりの心が息づく社会を目指します。


運営メンバー ペリネイタルロスの当事者

活動内容 ・座談会・勉強会などの開催 ・働く天使ママや周囲の方に向けた情報提供

  • 社会(特に職場)に向けての働く天使ママに関する啓発・改善活動

参加できる人 ペリネイタルロスを経験された働く女性など

活動エリア オンライン

相談 なし

集まれる場 あり(オンライン)

連絡先 お問い合わせフォーム よりご連絡ください

インタビュー: 森玲子(相談担当)、朝比奈ゆり(編集部)

*『ネットワーク』385号より(2023年8月発行)