市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

関東ウェーブの会(関東躁うつ病当事者会)

気分が躁とうつの極端な状態に変動する躁うつ病(双極性障害)の当事者グループである「関東ウェーブの会」の事務局員の方にお話をうかがいました。


はじまりの物語 ~関東圏で初の躁うつ病の当事者グループが誕生~

2000年にある当事者の方が「躁うつ病とこころの部屋」という交流サイトを作ったことがきっかけでした。それまでは躁うつ病の当事者が集まる場はまったくありませんでした。このサイトをきっかけにその後実際に顔を合わせるオフ会が関西や東京で開かれるようになりましたが、当事者間で躁うつ病特有のもめ事や排除があり、そうしたつながりをなかなか継続できないでいました。そんな中、2005年に「関西ウェーブの会」という集まりが立ち上がり、関東でも何人かの当事者が中心となり、2006年に「関東ウェーブの会」として活動を始めました。


ハイテンションの嵐

躁うつ病は三大精神障害の一つですが、その認知度はあまり高くありませんでした。状況が変わり始めたのは、90年代末から行われた「うつは心の風邪」というキャンペーンの後ぐらいからです。その波に乗って躁うつ病の認知も広がっていきました。昔は100人に一人の発症と言われていましたが、最近は躁の軽い人も対象に含めて考えるようになってきたこともあり、その診断を受ける人はもっと多いのではないでしょうか。

発病の原因は分かっていないことも多いのですが、複数の遺伝的要素の上に、引き金となる環境や経験が重なることで発病するという説が主流となっています。この病気の性格として寛解することは希であって、一生付き合わなければならない方がほとんどです。

躁状態になると、それまでの自分とは打って変わって、テンションが異様に高くなり、次々と色々なことを思いつくようになります。病気である自覚はなく、頭は常にフル回転し、集中力はなくなり、気が変わりやすくなります。そのため一つのことに打ち込んだり、何かを成し遂げたりするのが難しくなるのです。突き動かされるように話が止まらなくなります。自分の中では論理的でつながりのある話をしているつもりでも、周りの人にとっては次々と話題が変わり脱線していくため理解できません。

思いつくことが多すぎて覚えきれないことはあっても、基本的には記憶の連続性もあります。そこが解離性同一性障害、いわゆる“多重人格”障害などとは大きく異なります。非道徳的な言動をしたり、お金を湯水のごとく使ったり、尊大にふるまったり、性的に奔放なふるまいをしてしまうといった社会的逸脱行為もあります。


躁状態が引き起こす孤立と孤独

当事者は躁状態の時には誇大的で気が大きくなり、自尊心も大きくなります。「自分は何でもできる」という万能感に支配され、それまで持っていた社会的なバランス感覚もなくしてしまいます。躁うつ病の当事者は、人格の同一性(自我)は保持したまま、価値観が変わってしまうのです。

社会的逸脱行為だけでなく、躁状態のもたらす万能感をもとに人と接するため、人と衝突しやすくなります。そして、最も身近な家族や知人に迷惑をかけ突き放されたり、見放されたりしてしまうことも珍しくありません。その結果、当事者は孤立・孤独を余儀なくされます。

精神障害の中では自殺率が非常に高いことも特徴で、特にうつから躁に転じる時が危険です。気分は落ち込んでいても、体が動くいわゆる「混合状態」のときに自殺のリスクが最も高くなります。本人にとってこのような「うつから躁」もしくは「躁からうつ」に転じる時期が一番つらく苦しいのです。


QOLを高め、激躁を抑える

当事者が躁に転じるいわゆる「躁転」のサイクルですが、昔と今では状況が変わってきました。昔は3年周期や1年周期といったサイクルの人が多かったのですが、最近は軽度の人(軽躁)も治療の対象となっているので、躁転のタイミングが年に4回とか、月単位、日替わりといった短いサイクルの人も目立つようになりました。

いずれにせよ、服薬や生活リズムのコントロール、仲間とのつながり、病識を持つことなどが状態の安定につながります。日常生活で何かトラブルを起こして孤立するような事態になっても、会の活動に参加して仲間と交流し、QOL(Quality of Life)を上げることが大事です。

躁状態がマックスになる「激躁」をどう抑えるかが一番の問題です。薬もありますが、当事者会への参加も、予防的な効果や意味があると考えています。


トラブルがあっても

話し合いで解決しよう

こうした躁うつ病の当事者同士が顔を合わせる集まりを開けば、波長が合わない人同士が出てくるのはむしろ当たり前です。一度スイッチが入ると、高まった正義感などから相手を言いこめようとしたり、特定の事柄に執着したり、ネット上で喧嘩することも珍しくありません。

人間関係のトラブルがあると当事者会の活動の維持が難しくなるので、トラブルを起こした人は、とかく排除されがちです。ですが、現在、関東ウェーブの会では、全ての躁うつ病者を排除せず、問題行動はみんなで話し合いで解決しようと決めています。会則をたくさん作って、メンバーを制限するようなことはせず、「当事者ならどんな人でも入ってきていい」「何かあってもそれをみんなで乗り越えよう。それが大事なんだ」と思って活動しています。


孤立・孤独からの解放

会の在り方として、以下の4点を大切にしています。


①孤独な躁うつ病者が気軽に集まれる会

②安定して継続できる会

③全ての躁うつ病者に開かれた排除のない会

④みんなで作っていく当事者中心の会


現在、会員は35名、事務局員は6名です。月に1回例会を開いており、毎回10数名が参加します。毎月第一土曜日の2時から5時までが懇談会、6時から9時が懇親会です。懇談会の話題やテーマは事前に募っています。(テーマの例:「睡眠について」「社会的孤立の解消」「就労・社会参加」「躁うつの波のコントロール」「QOLの上げ方」「うつのしのぎ方」「家族間や、人間関係」「薬のこと」「当事者会とは」など)。他には、例会等の報告集の作成(Webページ上で公開)、掲示板の運営、月に1回のチャットデーや年1回の総会、運営交流会、宿泊行事なども行っています。また、それらの活動を支えるため、月に2回Skypeで事務局会議をしています。

躁うつ病当事者の孤独はある種特殊なものです。自分自身で自らの社会的な信頼やステイタスを破壊してしまい、その結果社会から疎外され、行くところがなくなってしまうからです。後に残るのは、絶望と強い自責の念だけ。そんな当事者が同じ境遇の人と出会い、許しあい、支えあうことで孤立や孤独から解放される。そういう活動なのです。

だからこそ、排除せず、とにかく話し合います。誰も排除しないことは、私たちの誇りです。


関東ウェーブの会(関東躁うつ病当事者会)

http://bipolar.ac/kanto/

https://twitter.com/kantowave

躁うつ病(双極性障害)の当事者グループ。当事者同士のつながりや人間関係作りを通して「孤独な存在」から解放されることを目的に、2006年に設立。例会の開催やチャットデーの実施、レクリエーションイベント、掲示板での交流などを行っている。「誰も排除しない」運営のありかたを大切にしながら、活動を行っている。


キーワード躁うつ病/双極性障害/bipolar

メンバー 躁うつ病(双極性障害)の当事者、躁転の経験者、家族等の賛同者

活動内容 例会、掲示板やチャットでの交流。レクリエーションイベントの実施など。

活動エリア 関東エリア

相談 あり

集まれる場 あり


*『ネットワーク』361号より(2019年4月発行)