市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

精神疾患の親をもつ子どもの会
こどもぴあ

統合失調症やうつ病、依存症、気分障害など、精神疾患のある親をもつ子どもの会「こどもぴあ」代表の坂本拓さんにお話をうかがいました。


はじまりの物語 ~ 母親がリストカットした夜

中学2年生の時、夜中に階下で騒ぎがあり、何事か見に行くと、母と母の当時の再婚相手だった義理の父が口論しており、母が手首から血を流していました。それが私にとっての“はじまり”でした。なぜそのような事態になったのか、親からは何も説明されませんでしたが、それを機に、元気で力強かった母は、次第に笑顔がなくなり、仕事にも行かなくなり、家で寝ていることが増えていきました。その時の私には、それが精神疾患の影響なのだという認識はありませんでした。

高校2年生の時に初めて母がうつ病とパニック障害を患い、精神科のクリニックに通院していることがわかりましたが、既に、そんな母に寄り添い、ひたすら話を聴く日々が続いていました。高校時代にネットで目にする精神疾患に関する情報は、私の心配を掻き立てるものが多く、母がまた自傷行為をしないか怖くなって、目が離せなくなっていきました。

発症前の母は、若くして姉や自分を生んで、ダブルワークで仕事も子育ても頑張ってきたような人だったので、そのギャップは大きかったです。今度は自分が母を守る番だと一生懸命面倒をみていたものの、「自分の人生は一体何なのか?」と自問してしまうつらさもありました。本来であれば親から庇護されるべき関係が逆転し、親のお世話役を余儀なくされた私は、子ども時代に適切な親子関係が築けないことから生じる、いわゆる“アダルトチルドレン”の状態になっていました。自分の存在、アイデンティティに悩み、親子の関係性に大きな疑問を抱くようになりました。こうした葛藤や生きづらさを抱えたまま今に至っています。私は20代後半ですが、自分の人生を歩みだしたと感じられるようになったのは、つい最近のことですね。

将来整備士になりたくて工業系の高校に通っていたのですが、母のことがあって精神保健のことを勉強しようと思い、卒業後は福祉分野に進学しました。福祉の分野に進んだことで、様々な精神疾患や病状の程度、地域でのくらしの在り方などを知りましたが、未だに母のことを客観的に見ることはできません。最近はあえて母のことを考えたり気にしたりしないようにしています。


親から離れて自分自身のやり直しを

就職して1年ほどたった時、母から離れて1人で生活することを選びました。このタイミングを逃せば、これからの人生で自分の自由はなくなってしまうような、何も選択できなくなるような怖さがあったからです。実に何年ぶりかで、自分の希望を親に伝えた瞬間でした。母と離れて暮らすことには、無論、葛藤もありました。自分の選択が人に責められるようなものではないとわかっていても、気持ちが追いつきませんでした。こんなふうに人に話せるようになったのは、この数年のことです。

しかし、母と離れて暮らしても、それで問題が解決するわけではなく、これまでの経験から、今でも人との関係性に思い悩みます。傷つきたくないから、親しくなった人との関係を自らリセットしてしまうこともあります。客観的に見れば自己肯定感の再構築とやり直しが必要なのでしょうが、何から手をつけていいのかわからないのが正直なところです。


子どもという同じ立場のグループが誕生

数年前、精神保健や家族支援の研究者の方たちが開催した、精神疾患のある子をもつ親たちの家族会に参加したことをきっかけに、精神疾患のある親をもつ子どもたちの集まりがもたれるようになりました。その後、家族による学習会が続けて開かれるようになり、私自身もそこに参加しました。当初は福祉分野で働いていることもあり、こうした問題への自己認識もできていると思っていたのですが、いざ話そうとすると、自分の体験やその時の思いを言語化して人に伝えることができない自分に気づきました。あらためて、自分に向き合うことが足りていなかったのだと知ったのです。そんなこともあって、積極的に家族学習会に参加するようになりました。そこで同じ立場の仲間ができ、その集まりをもっと広げていくために、名前をつけることになり、2018年1月に現在の会の名称になりました。


「自分も大人になれるんだ」

こどもぴあは、出会いの場としての「つどい」と経験・体験、思いを共有する場である「家族学習会」、そして「広報・啓発」が活動の3本柱です。そのうち家族学習会に大阪から参加があり、支援者である研究者の方が大阪にいることもあって、こどもぴあ大阪が立ち上がりました。その後、札幌や福岡でもこどもぴあが誕生し、沖縄でも立ち上げの動きがあり、全国に広がっています。

つどいや家族学習会に参加する人の親の状況は、「統合失調症」「気分障害」「依存症」「発達障害」「パーソナリティ障害」など様々です。中には親が未受診・未診断の人もいますが、子ども本人が親との関係で悩み、違和感を抱えているのであれば参加OKです。参加者の年齢は10~60代と幅広いのですが、経験や抱えてきた思いを共有するのに本当に年齢は関係ないなと感じます。若い参加者であれば、年上の人を見ることで、「自分も大人になれるんだ」「親と離れて、自分の人生を始められるんだ」「私も結婚できるんだ」「つらくなったら、またここに来ればいいんだ」など、自分のこれからの可能性を感じられるような場になっているのではないでしょうか。


大変な状況で育った子どもたちの存在を知ってほしい

参加者によっては、例えば風呂には毎日入るものなのかどうか知らずに育ったり、歯磨きの習慣を教わらずに育った人もたくさんいます。無論、疾患や障害を抱えた親が悪いのではなく、適切な支援や周りにサポーターがいればなんとかなるのですが、偏見や社会のありよう、支援サービス自体の不足など、様々な要因が絡み合った結果、大変な状況で育った子どもたちがいるわけです。こうしたいわば“壮絶な体験”をしてきた人がいることを多くの人に知ってほしいと思います。一方で、当事者にはその体験を社会に伝えてほしいのですが、そうした人ほど、思い出す作業がよりしんどくて苦しいため、なかなか語ることができないという現実もあります。

リアルタイムで今、子ども時代を過ごしている、自ら助けを求められないような仲間たちをどうやって救っていけるのか。つらい状況にある子どもの世帯に直接介入することは非常に困難ですが、ラジオや新聞などのメディアの取材や、教員啓発用のDVDやYou Tubeの作成、書籍を出すなど思いつく限りの発信を続けています。活動していく上では大変なこともたくさんありますが、私のライフワークだと思っています。


精神疾患の親をもつ子どもの会 こどもぴあ

〔キーワード〕精神疾患のある親に育てられた子ども

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精神疾患のある親に育てられた子ども同士による当事者会。2018年から現在の名称で活動。子どもの立場が抱える様々な困難や体験を当事者間で共有し、そうした子どもたちがいることを社会に広く発信することを目的に活動している。「こどもぴあ」の"ぴあ"は、こどもの立場にとって居心地のよいところ「ユートピア」と、子どもの立場の仲間「ピア」によるピアサポートを意味している。みんなねっと(公益社団法人全国精神保健福祉会連合会)所属。


メンバー 精神疾患のある親に育てられた子ども(親が未受診・未診断の人も含む)

活動内容 つどい、家族学習会の開催。マスコミや書籍、インターネットによる情報発信。

活動エリア 東京

相談 あり

集まれる場所 あり

*『ネットワーク』368号より(2020年10月発行)