市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

ReOPA(レオパ)

一歩を踏み出すきっかけに 共に歩む居場所になりたい

うつ病やうつ状態で苦しんでいる方、生きづらさを感じている方に寄り添う自助グループReOPA(レオパ)を運営しているゆまさんにお話をうかがいました。


はじまりの物語 〜ある朝、起き上がれなくなった

活動をはじめたのは10年ほど前です。社会人2年目の時、メンタルの疾患を発症したのがきっかけです。幼少期から、人の目が気になったり、完璧主義だったり、感受性が強すぎたり、ちょっと生きづらい子どもではあったんです。「人と何か違う」「ちょっと辛いかも」と感じていました。そういった違和感を抱えながらも、大学生まではなんとかごまかしながら生きてこられたのですが、社会人になったらプレッシャーというか、「早く一人前にならないと」「周りに追いつかなきゃ」「完璧にやらなくちゃ」と、過剰なほど抱え込んでしまうようになりました。子どもの頃から蓄積されていた辛さも一緒に出たのか、摂食障害、拒食症になり、うつ状態になり…バーンアウトしてしまいました。それでも「これは甘えだ」と思い、足を引きずるようにして職場に行っていました。自分でもおかしいと思っていたんです。急に涙が出たりしていましたし。

そんなある日、朝ベッドから起き上がれなくなりました。いよいよ「これはまずい」と思って、病院に行ったら「うつ病」と診断されました。ショックというより「やっぱり」「来るべき時がきた」という感覚でした。うすうすわかっていたのだと思います。医者の勧めで休職したものの、全く休めなかったです。ひきこもり状態で家から出られない時期もあり、一時、実家に帰ったのですが、その時も「本当は親孝行しなきゃいけない年齢なのに」「親が働いて、私は家にいるなんて」と思っていました。自助グループの集まりでは「私がこうなったのは親のせい」という声を聴くことがあるのですが、私は親にとても感謝しています。むしろ「こんなによくしてもらったのに、なんで私はこうなっちゃったんだろう」とますます自分を責める感覚がありました。その頃は、何かやらなきゃと思ってもできなくて、自己嫌悪、自己否定感に苛まれて苦しかったです。休職することにも理解のある職場だったのですが、私自身が「これ以上迷惑をかけられない」という感情に捕われてしまい、退職しました。

うつの症状の一つに「意欲の低下」があるのですが、本などに書かれているその言葉の裏には言い表せないほどのいろんな苦しみがあるんです。私の場合は、できていたことができなくなる、今までの生き方ができなくなるという感じでした。一番辛かったのは、何も楽しめなくなってしまったことでした。好きだったものが好きでなくなり、楽しかったことが楽しめなくなりました。「無」という感じ、「ただ息してるだけ」の感覚です。何が起きているのか自分でもわからず、普通に生きてきたのに急に罠にはまって「あれ?」という感じでした。みんな先に行っちゃって自分だけそこから抜けられない、一人「穴の中にいる」という感じが辛かったのだと思います。そして、自分の本当の気持ちがわからなくなりました。例えば自分が何を好きだったのかがわからない。幼少期から周りの気持ちを先読みして期待に応えてきたことも影響したと思います。自分の心の声を探すために、自分の内面を掘り下げていきました。

病気になってから生き方を再構築しているような気がしています。病気になったのはいろんな要因や環境が複雑に絡み合い、限界を超えた結果だと思うんです。だから私は原因を追究するより、これからどう生きていくかという方向で考えていきたい。それまでの生き方に無理があったと気づくきっかけになりました。

回復するわかりやすい出来事があったわけではありません。長い時間をかけて少しずつ諦められるようになった感じです。当時は時間が解決するとは全く思えなかったのですが、数年経って「あれ、半年前よりちょっと楽になっているかも」という感じでした。全く外に出られなかったのが、ドアの前まで行けた、ドアを開けられた、顔を外に出せたとか、できたことを一つずつ積み重ねて、気づいたら少しトンネル抜けていたような。そうやってじわじわと浮上してきた感じです。「完璧にやらないと」「働かなきゃいけない」という意識も緩んできました。

その頃、私と同じような人はいないのかなと、ネットで探してみたんです。世の中にうつの人がいることは知っていたのですが、会ったことがなかったので「本当にいる?」「こんなに苦しいのは私だけじゃないのかな」と思っていました。私を明るく元気な人と思っている友人にも自分の状況を言えていなくて一人で抱え込んでいました。いろいろ検索しているうちに自助グループというのがあると知り、「もしかしたら私の辛さをわかってくれる人がいるかも…」と思いました。でも、どういうところかわからないし、もしかしたら変な勧誘があるかもしれないしと、いろんな心配をしていました。半年くらい迷ったのちに思い切って行ってみたら、そこには同じ境遇の人がいたんです。自分だけだと思っていたのに、目の前にたくさん同じような人がいて、とても安心しました。

初めて参加した時は、様子を見るだけのつもりだったのですけど、他の人の話を聞いているうちに、ここでは話してもいいんだって思えてきました。ひきこもっていたり、仕事をしていない人ばかりで、自助グループの中ではそれが通常のことだった。それで少し話し出してみたら「私、話したかったんだ!」と気づいたんです。初めて「辛いんです」「困っていて、どうしようもなくて、助けてほしいんです」と言えた時、受け入れられたと感じて、「私にも居場所があるのかも」と思えました。自助グループに行ったことが、回復のひとつのステップになりました。


仲間がいることの意味

そのうちに、こういう場がもっとたくさん必要なんじゃないかと思うようになりました。それに当時行っていたグループは男性の参加者が多く、女性特有の悩み、例えば生理や妊娠、出産、キャリアなど、男性にはわかりづらいこともあると感じていました。そこで仲間とReOPAの前身団体(東京うつ病友の会)を立ち上げ、その中で女子会活動を始めました。

2018年には新たにReOPAを立ち上げました。ReOPAでは「こころトーク」という当事者の集まりを開催しています。みんなで集まって、悩みや不安を吐き出す場です。守秘義務や宗教・政治の勧誘はしないなど、最低限のルールはありますが、なるべくゆるくやりたいなと思っています。グループに分かれて、それぞれにスタッフが付いて進行をします。今メインのスタッフは5~6人です。コロナ禍に増えました。自己紹介のあと、グループごとに今日話す「テーマ」を決めていきます。「休職からの復帰について」や「友達に話すタイミングについて」などが挙がったことがあります。1回3時間ですが、あっという間です。

2020年、コロナで集まる活動ができなくなりました。これまで実際に会って話すことを大事にしてきたので、いろいろと悩んだのですが、つながりは続けたいとオンラインに切り替えて続けることにしました。でも、「当事者」の中には、スマホを持っていなかったり、家にネット環境がない人もいます。オンラインでの活動中、参加できなくなった常連の方のことが気になっていました。ReOPAだけが居場所だった方がそれがなくなってどうしているのか…本当に心配でした。

つい先日、2年ぶりに集まる活動を再開しました。これまでのReOPAは、当日の体調や気分次第でフラっと参加できる場にしていたのですが、コロナ禍でそうもいかなくなり、事前申し込み制に変更しました。すぐに定員に達して、当日欠席もなく参加者が集まった様子をみて、やってよかったと思いました。こんなに待ち焦がれてくれていたんだとうれしくなりました。私も長い間会えなかった方に会えたり、休憩時間に隣の人と話したり、そういう雰囲気を久々に味わえてとても楽しかったです。実際に会うことの威力はすごいなと思いました。オンラインだと、体調の悪い人がベッドの中から参加できたり、初めての方も顔を出さずに参加できるメリットがあるのですが、集まる活動とは別物だと感じています。どちらかの代わりになる手段ではないので、これからも両方活用していきたいと思っています。

もう一つの活動として、月1回イベントを開催しています。お花見やヨガ、公園散策などの行事や、専門家を招いて社会資源や制度などの勉強会を開催しています。うつになると、自分で情報を集めることがすごく難しいんです。文字を見ることができなくなる方もいる。だからReOPAを通じて資源や制度を知っていただき、少しでも生きやすくなってほしいと願っています。だからこそお金やノウハウの話で終わらないよう、テーマの扱い方を慎重にしています。ReOPAは、Rest(休憩)、Opportunities(機会)、Preparation(準備)、Action(アクション)の頭文字です。休んで、きっかけをつかんで、準備して、動きだせるように、そのステップを名前にしました。休む段階も大事ですが、動きだしたいと思った時に、どうしたらいいのかわからないこともあるので、そういう段階の方もサポートできるように企画をしています。


自分の経験が役に立つ実感

セルフヘルプグループとか自助グループとか、いろんな言い方がありますが、当事者会の意義って色々あると思うんです。私は最初のうち、同じ境遇の方と話して、弱さを打ち明けて、共有できることが大きいと思っていました。それが徐々に、人と話す機会がない人にとっては人と接するきっかけになったり、「自分だけだ」と孤独を感じていた人にとっては知り合いができて一人じゃないって思える場になったりしていることが見えてきました。また、隣の人の困りごとに「僕はこうしたよ」「私はこうだった」と伝えられることも大事だと思います。もちろんグループに来る時は皆さん自分を助けてもらいたくて参加します。でも、誰かの役に立てたと実感できることも大きな意味があると思います。私も、暗い顔をして部屋に入ってきた方が、帰るときにすごく明るい笑顔になっているのを見ると、役に立ったのかなという感覚になれたりします。それって、自助グループじゃないとあり得ないんじゃないかなと思うんです。自分の体験や経験が誰かの役に立ったと感じたり、誰かと「助け合えた」という実感は、自己肯定感をすごく高めてくれるのだと思います。

それから、他ではなかなか話せないことを自助グループでは安心して話せることも大きい。仕事をしていません、何もしていません、ひきこもっています…。そういうことをカジュアルに言える社会ではないから、誰かに聞いてもらいたくても話せる場がないんです。だからグループに参加して「はじめて人に言えた」ということも多くあります。「何日もお風呂に入れていない」とか「実は顔も洗えなくて」とか、そういう社会的には「えっ」と思われそうな話題も対等な立場で話せることの意味は大きいと思います。

コロナ禍、これまで以上に吐き出す場がなくなってしまったので、少しでも気軽に交流できるよう匿名で参加できるチャットルームを作りました。最初は24時間運用していたのですが、夜に一人で変なことを考えてしまった内容が、そのまま文字に残っちゃう。苦しい思いを吐き出したい方もいれば、誰かが吐き出した文字に影響を受けてしまう人もいます。取り扱う話題にも注意しないといけないんだなとわかりました。見る側の体調もありますから、バランスが難しいなと思います。今は8時から21時までの間、お互い負担なく使えるようにルールを作って運用しています。


誰かの居場所であり続けたい

当事者会の運営って、正直大変なんです。でも、ReOPAは、ストッパーになりたいと思って続けています。例えば著名人の自殺の報道が続き、それが、誰かにとってある種の衝動で一線を越えちゃう“トリガー”(引き金)になる可能性があったとして、ReOPAが引き留められる一つのきっかけになれたらと思っています。「今、死にたいけど、来月ReOPAのイベントがあるからそれまで待とう」とか「ReOPAであの人に会えるからもう少し…」とか。実際に「こういう場があって、救われました」と言ってくださる方もいて、その一言で全部の苦労が吹き飛びます。だから今は、活動を細く長く続けていきたいと思っています。まずは居場所の活動を続けていくことが最大の使命です。というのも、自助グループは継続するのが難しくて、グループができては消え…で、せっかくできた居場所がなくなっちゃったという方がたくさんReOPAに来るのです。活動を大きく広げていくより、今この場所を大切にしている方の居場所をなくさないようにしたいと思っています。

当事者会を運営しているととても勉強になります。私自身、「底」を脱して時間が経っているので、その時の感覚がわからなくなってきちゃうのです。動けない状態の人に「とりあえずやればいいじゃん」って思っちゃいそうになるんだけど、会をやっていることで「それすらできない」という感覚を忘れずにいられます。それに症状の個人差が大きいので、自分の経験や感覚が全てではない、自分の見ている世界が全てではないと改めて知ることができます。うつは、言葉で言い表しにくい苦しさもあるのでなかなか本当のところが知られていかない。だからこそ、ReOPAで出会った方々から学んだことを社会に還元できたらと思っています。例えば自助グループの活動を広めたり、当事者の声を社会に届ける活動も必要です。活動をしているからこそできるつながりもあるので、他の団体と協力して取り組んでいけたらいいなと思っています。


◯ReOPA(レオパ)

https://reopakokoro.amebaownd.com/

(キーワード)うつ病、うつ状態、生きづらさ

うつ病やうつ状態で苦しんでいる人、生きづらさを感じている人が、安心して休んで(Rest)、回復へのきっかけをつかみ(Opportunities)、次へ向けての準備(Preparation)、をして、そして実際に一歩を踏み出して歩けるように(Action)、という思いから2018年から活動を開始。当事者の集まる場(こころトーク、こころ女子トーク)、お出かけイベントやヨガ、勉強会などの開催、2020年からは匿名で参加できるLINEのオープンチャット(ReOPA〜交流ルーム〜)を運営。「うつ病」や精神疾患の診断がなくても、生きづらさを抱えていたり、メンタルに不調があると感じている人であれば参加できる。他団体との連携や情報発信にも積極的に取り組む。


運営メンバー様々な生きづらさを抱える当事者

活動内容当事者が集まり気持ちを分かち合う場の開催、イベントの実施、オープンチャットの運営

参加できる人こころトーク、こころ女子トークは当事者(生きづらさを抱えていたり、メンタルに不調があると感じている人)のみ。「うつ病」や精神疾患の診断がない人も参加可能。 ※家族や付添の同伴については、事前にご相談ください。

活動エリア東京他

相談なし

集まれる場あり(状況によりオンライン開催の場合もあり)

連絡先utustaff@gmail.com

*『ネットワーク』379号より(2022年8月発行)