ボランティア・NPO・市民活動を応援する情報誌『ネットワーク』

《インタビュー》
増え続ける災害に立ち向かって

上島安裕さん(一般社団法人ピースボート災害支援センター 理事/事務局長)

2021年12月号 ミニシリーズ『変わりゆく社会とボランティア・市民活動』より


ネットワーク375号 では「変わりゆく社会とボランティア・市民活動」として、市民活動の現場からその変化をみつめました(本誌p21)。上島安裕さん(一般社団法人ピースボート災害支援センター)へのインタビューについて紙面に掲載しきれなかったお話を含めてフルバージョンでご紹介します。



災害支援の専門組織を設立

東日本大震災以前はNGOピースボートとして、船旅で3か月かけて世界を一周し国際理解を深めつつ国際平和の実現をめざして活動していました。1995年の阪神淡路大震災のときに、さまざまな被害が出たなかでNGOピースボートでは情報誌を配布する支援を行いました。3か月ほど経ったところでまだやるべきことはあると思いましたが、地元の人にお願いして引きあげました。そのときに、本来の事業をしながらの災害支援は難しかったという反省があります。

その後、2011年に東日本大震災が発生し、今度はしっかりと支援に向き合えるようにと考えて、災害支援の専門組織としてピースボート災害支援センター(当時はピースボート災害ボランティアセンター)を立ち上げました。この東日本大震災が、私たちにとって大きな転機になりました。

ボランティアの力は非常に有効ですが、一方でマネジメントされていないと混乱を生むことにつながります。私たちは、現場で活動するボランティアの人たちを現場でマネジメントする存在が必要と感じ、混乱を生まないために、情報を整理して、たくさんの人が関わることができる環境をつくり続けました。

たとえば、困りごとはたくさんあってそこに人が行けば何とかなると思ってしまいますが、現場の知識がまったくない人を送っても、受け入れ側に負担がかかってしまいます。避難所で人手が欲しいと言われても、マネジメントする人がいなければ機能しません。食事を作る場合、現場にマネジメントする人がいれば、たくさんの人に食事を届けることができます。

そこで、私たちは現場のリーダーが増えることで、被災した方の課題を解決できるという思いから人材育成を始めました。現場実習のように、現場でリーダーの横にいて何をやっているかを理解するトレーニングですが、現在はそれをもとに、全国各地で社会福祉協議会などと一緒に研修を行っています。

実は、私たちは東日本大震災の支援を終えたら法人を解散するつもりでしたが、現在も活動を続けています。気候変動の影響で災害が増えているからです。今後、災害支援がしっかりと実行されていかなければ、被災した方の課題がそのまま残されてしまうことがわかってきたと思います。


普段からネットワークする

2012年に和歌山県那智勝浦では台風12号による大きな被害がありました。そのときの活動で痛感したのは、現地の社会福祉協議会にとってNPOなど知らない団体が外からいちどきに来ることは普段の福祉事業では経験することもなく、どう取り扱って良いかわからないということでした。災害が起こる前から社会福祉協議会とつながりを持ち、私たちが何をしているかを伝えていくことが大事だと考えるようになりました。その後「震災がつなぐ全国ネットワーク」や全国社会福祉協議会、東京都社会福祉協議会(東京ボランティア・市民活動センター、以下TVAC)などと普段からつながりづくりをすすめるようになりました。


現状の変化としては、大きくふたつあげられます。ひとつは『アクションプラン推進会議』をTVACが中心になって東京都内でネットワークづくりに取り組んでいますが、こういった圏域ごとの災害前からのネットワーク組織が全国的に広がった点です。もうひとつは、災害時の支援調整という考え方が定着してきたことです。たとえば、東日本大震災のときに言われた、市町村単位でのセクター間やアクター間を越えたつながりはごく限られた市町村でしか行われませんでした。今でこそ連携が普通になりましたが、大きな組織同士がつながったり、情報共有したりすることはかなり難しかったのです。その解決のために動いたのが、全国災害ボランティア支援ネットワーク(JVOAD)です。準備会に3年くらいを要して合意形成がすすめられました。


災害支援の資金調達

2016年4月の熊本地震をきっかけに、私たちも参画するJVOADが本格的に法人を立ち上げ、市民同士や組織間の情報連携を進めました。この2~3年で大きく変わったのは、「ボランティアとの連携」ではなく「ボランティアやNPOとの連携」というように切り替わったことでしょう。組織や実績を記録し整理して伝えられるようになったことで、「ボランティア」という個人ではなく、組織として(行政と)パートナーシップを持つことができるという理解が進んできたのが最近だと思います。

2020年に災害救助法が改正され、NPOも避難所の運営業務を受託できるようになりました。今までは「お願い」と言われても費用面は積極的に支援されてこなかったのですが、災害ボランティアセンターは税金で運営するほど必要な機能だと理解されてきたんだと思います。

また、中央共同募金会でも災害に対する備えへの資金助成がなされたり、WAM助成(社会福祉振興助成事業)や休眠預金事業なども、災害前の備えやネットワークづくりに助成金が出るようになりました。


課題を広く共有する

災害の頻度が地球規模で増えてきて、現状は堤防や擁壁など防災のためのインフラだけでは災害を防げなくなっています。インフラの強化も進められていますが、それは時間もお金もかかります。そこで、災害が起こる前に逃げる、起こる前に備えるという自助の考え方をもっと広めていく必要があると思っています。

また支援団体としては、前述した普段からネットワークをつくることのほか、実際に起きたときの課題整理も備えのひとつです。たとえば、災害ボランティアセンターを運営したときの課題を棚卸しして、みえてきたことを広く共有したり、避難所の運営経験のある人はまだ少ないので、避難所の運営を事前に理解してもらうなど備えとしてできることです。

人を育てることも大事です。まずやらなければならないのは、災害時に繰り返される課題の全体像を把握することからスタートし、災害時に具体的に行動できる人を育て、仲間を増やすことをめざしています。


市民の災害への意識

市民の意識は、あまり変わっていないと思います。たとえば、2021年の衆議院選挙の際のアンケート調査では、政策のプライオリティとして防災・減災は2~3%くらいしかありませんでした。市民感情としては、災害に遭うという当事者意識が持ちにくいと思いますし、被災地支援を行うなかでも、「まさか自分が被災するなんて」という言葉は毎回のように耳にします。

被災地の支援に参加する人はごく一部であって、支援にかかわるNPO同士はほぼ知り合いというくらいしかありません。それでは被災地の復旧、復興には人手が不足してしまいますし、長期的な視点でみるとやはり復興は地元が中心となっていくと思いますので、市民と一緒に行動したり、市民へアプローチしていくことも必要と思います。


一方で、東日本大震災をきっかけにして、災害ボランティアの認知度が高くなったのは事実です。「災害ボランティア」という言葉もですし、何かあったらボランティアに参加しようとか、社会福祉協議会がボランティアセンターを運営していると知られてきたのではないでしょうか。


世代を越えて防災の意識を

今は、ハザードマップ*などの情報が自治体から出されるようになって、自分の居どころが被害に遭う可能性があるかどうかを誰でも知ることができます。また、土砂災害など特に危険が想定されるエリアには不動産をつくらないようにするとか、不動産会社はハザードマップ内に位置する物件であることをあらかじめ伝えないといけないとか、少しずつですが、法改正も行われています。

しかし、防災に関する市民の意識もまだまだ変えられていないと感じています。たとえば、防災教育に力をいれている地域もありますが、その中心を担うのは比較的年齢の高い方々、もしくは災害の経験者に限られています。そのまわりの人たちとは距離ができてしまい、ギャップが生じているのではないかと各地の試みをみていて感じます。


コロナ禍の2020年、ある自治会が防災訓練をした際に、LINEを使って周知をしたら若い世代がいつも以上に参加したそうです。この例のように、自治会がSNSを使うようになることでこれまでよりも幅広く周知がすすむと期待される一方で、コロナ禍だから何処へも行けず時間ができて訓練に参加したという声もありました。つまりコロナ禍でなければ、訓練に参加する人、たとえば子育て世代はまだ少ないのだと思います。このあたりの意識の変化を受け止めて、どのように周知をすすめていくのかも、今後の課題でしょう。

そしてまた、企業や自治体では2、3年ごとに人事異動があって、災害の担当者が入れ替わり、組織外とのつながりや、学んだ知識やノウハウが検証もされぬままその都度リセットされてしまいます。それまで積み上げたものが組織的な方針によって崩されてしまうので、事象によって対応の変化が求められるこの分野では、組織のリーダーによる全体的な意識改革とともに、専門的な人材の確保をしていかないと、災害時の対応は厳しいと思います。


協働して災害に向き合う

最近、災害支援の現場では、「屋根に上がるような危険な作業に社会福祉協議会のボランティアセンターだけで対応できるのか」、「避難所など自治体が設置・管理するところにもボランティアを派遣するのか」などがよく議論になります。それぞれの自治体や社会福祉協議会によっても方針が変わり難しい問題だと思います。しかし、災害ボランティアセンターを社会福祉協議会やNPOなどが連携して運営したり、屋根へのブルーシート張りや水害後の家屋保全、避難所運営などを実施できる専門性をもった組織と、協働することによってより多くの人たちを助けられると考えています。被災した方への支援を最優先に、はじめは外部からの支援を受け入れつつ、より良いまちに戻していくため、最終的にはその地域で生活をおくる地元の方々が主体になって支援を実行できるようになることが重要だと思っています。


2020年初頭からコロナ禍になって、ボランティアの受入れ方も地域によって差がありました。人の移動を伴うと、感染を広げてしまう可能性があり、2020年7月豪雨時、熊本では、「県外からのボランティアはお控えください」というメッセージが強く出されました。多くの県外団体は活動を自粛したと聞いています。一方で、2021年に豪雨災害に遭った佐賀県大町(おおまち)町では、以前の被災経験からNPOや県外の支援者のできることがよくわかっていたので、地元だけではできない部分を町外の組織の人にお願いしようと、事前に外部の支援を受け入れる態勢づくりをしていました。

実は、わたしたちも2年前の災害時に支援に入っていたこともあり、今回の災害でコロナへの対策や、地元が支援を受ける際のNPO、社会福祉協議会、行政などの受け入れ基準や役割分担などをスムーズに話し合うことができました。

こうした普段から積み上げてきたものがあるとしっかりと実行できますが、地元とまったくつながりがない状態で支援に入るというのは厳しくて、そこが今後の課題です。地域ごとのローカルな情報や地縁情報は、外部の人間にはわからないものです。地理や人脈などを地元の市町村や都道府県単位で把握ができていると、わたしたちのような外部のNPOも支援できることが広がると思います。たとえば、普段から全国的なネットワークとつながっておいたり、外からの支援を受ける準備をしておいたりすることで、結果として被災した方の支援がより円滑にできると思っています。


参加しやすい環境づくりを

今後、災害支援の活動は福祉につながっていくのだろうと思います。普段の社会課題としてセーフティネットから落ちてしまいそうな人たちが災害をきっかけにさらに落ちてしまい、支援の制度が必要になる人が増えると思っています。そこに対する支援のスペシャリストは社会福祉協議会や行政の専門職の方ですが、災害支援にあたる私たちも支援者として復興の段階まで一気通貫で支援していくためには、福祉の制度も社会保障も理解しておかないといけないと感じています。


東日本大震災のときには家の清掃を中心に活動していたボランティアやNPOの仲間たちが、最近、福祉のこ とを言うようになりました。「僕らがやっていることは、福祉なんだよ」と言うのです。震災当時はそんな話はなくて、家を綺麗にすると思って活動していた人たちが、社会福祉協議会の人と話したり、他の支援者と情報交換するなかで、できることが増えたり、技術を高め合ったり、お互いにやっていることを尊重し合えるようになったりしているのだと思います。ボランティア自身の変化というよりも、支援者どうしで変化を生み出して相互理解が深まっているという感じがします。


災害はいつ、どこで起こるかわかりません。想定外のことがたくさん起こるし、求められる被災者の困りごとは多岐にわたります。それが「災害」というものなんだと思います。予めつくられていた制度やマニュアルなどの決め事には必ず穴がみえてきます。そんなときに臨機応変な対応が求められ、それをできるのは人しかいません。

人と人とが互いに支え合えるようになるには、性別や年齢、国籍や文化、組織などの違いを認め合い、垣根を越えて協働することで絆が生まれるのだと思います。多様な主体がお互いに助け合える社会をめざして、これからも垣根をいっそう低くして、誰でも参加しやすいような環境を整えていくことが、参加の裾野を広げていくと思っています。



* ハザードマップ: 自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図(国土交通省国土地理院)。身近な地域のハザードマップを確認できるポータルサイトはこちら → http://disaportal.gsi.go.jp/