市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

NPO法人 楽の会 リーラ
/お話:市川乙允さん

会のはじまり

始まりは、2001年。今から19年前にひきこもり親の会とKHJ東京支部(楽の会)としてスタートしました。東京は一つだと大変だから東と西に分けて僕は東の親の会に入りました。

その会で何をしたかというと、月例会をしました。しばらくして、同じ場所で月に一回、居場所を始めて、その数年後に親の学習会や電話相談も始めました。「親の会だけではなかなか本人支援はできないね」ということで、本人支援を中心としたNPO法人を2005年に立ち上げて、社会参加支援センターリーラというものを作りました。電話相談や相談事もしていましたが、活動の中心は居場所です。それから親の会とNPO法人としてのご本人のサポートを並行してやってきたのですが、どうもうまくいかない。そこで2013年ぐらいにNPO法人の社会参加支援センターに、親の会を統合してNPO法人楽の会リーラをつくりました。現在の活動は、「親が楽にならなきゃ子どもは元気にならないよ」という気持ちでやっていた楽の会(親の会)活動と、リーラでやっていた活動に相談事業を充実させ、グループ相談会と個別カウンセリング、訪問とカフェスタイルの居場所です。設立当時としてはカフェスタイルの居場所は革新的だったんです。


家族支援を一番得意とする相談

カフェスタイルの居場所は、当事者の皆さんの意見を取り入れて、当事者ベースでやっています。

親の立場では、カフェを開くためのお金集めとか運営に関与しています。それが無いと、カフェが開けないものですから。運営は、やっぱり当事者だけではなかなか難しいのです。


相談事業は3つあります。いわゆるグループ相談会と、個別の総合相談(個別カウンセリング)。それからもう一つは訪問ですね。この3つがメインです。電話相談も入れれば4つになりますね。今ですとメール、SNSとかあるのですが、SNSで相談事業をする予定はありません。ある程度元気なのかどうなのか、会えなくても声を聞くだけでも全然違うので(2020年9月末時点で、SNSカウンセリングも導入しました)。

相談は、6名のカウンセラーに協力してもらって、それぞれ勉強会の講師になってもらったり、カウンセリングをやってもらったり、それからグループ相談会で専門的なアドバイスもらったり、場合によっては、専門家が直接訪問することもやります。特徴的なのが、発達障害に非常に詳しいカウンセラーのグループ相談会。他にも親のライフケアを中心としたファイナンシャルプランナーでカウンセラー、元スクールカウンセラー、家族を中心に見られる人やひきこもりの経験があるカウンセラーがいます。専門性でカウンセラーを振り分け、合うカウンセラーの相談会に参加してもらいます。回によって違うカウンセラーが相談会に入ります。参加者はご家族だけで本人は出られません。本人が相談を受けられるのは、個別カウンセリングだけです。そこが僕たちの特徴で家族支援を一番得意とするところです。両方していくというのはきっと物凄く大変です。僕らが対象としている方々は厳しい状態のご家族が多いので、ほとんど本人につながれないのです。親さえ本人と全くコミュニケーションが取れない、顔も合わさない、多分誰とも会ってない、本当に深刻です。


初めての方は、相談は利用できませんので紹介がメインになります。今の状況に合っていれば、プログラム提供などを案内して、これがダメならこちらの方とかね、日程も原則土曜日ですが日曜日にしたり調整します。

当日は、それぞれの参加者が「うちは…」というお話をしていきながら状況を全部、話してもらいます。課題があった場合に、カウンセラーから一人ひとりアドバイスをもらいます。そこで、それぞれの皆さんの状況がある程度分かるんです。「こういう場合についてはこうやったらいいですよ」とほかの方にとっても凄い良いヒントになるんです。ここがグループ相談会の特徴なんです。個別だとそういうことができません。グループ相談会のいいところは、仲間ができます。こっちのほうが大きいかも知れませんね。深く突っ込んでやりますからね、お互いに共有しますしね。本当の意味での仲間になるわけです。そこがこのグループ相談会の良いところなのです。


本当に込み入ったところになると、皆さんの前では話せないからやはり個別になってしまいます。個別も増えて毎月10人以上はやってます。


当事者の方も数人今入っていて、ある程度元気になって、事務所に来れる方です。そういう方は個別でカウンセリングを受けています。そうするとカフェに来れるようになる場合が増えてくるのです。そこまでたどり着くのが大変です。だから先ずこの家族とつながるわけで、これがうちの核と言っていいと思いますね。


親が否定しないで受け止める

ひきこもりの定義を、家族以外の第3者との人間関係づくりが作れない状態をひきこもり状態ととらえています。

その要因は、一次的に疾病なり何らかのことがあって、二次的にひきこもる場合があります。

また、そういうものが無いのだけども、挫折、心の傷、現状ですとパワハラ、いじめとか心の傷付きによって、人が怖くて、対人不信に陥って外に出れなくなってしまう社会的ひきこもりがあります。大体この2つを要因として僕らは捉えています。


精神疾患による生きづらさ、発達障害等による生きづらさ、その他人格障害など、いじめなどによる人間不信、これらが全部、重なっているというか、明確に分けられない場合があります。ただ、今一番多いのがこの発達障害です。疑いも含めれば半分以上あるかも知れませんが、あんまりこれを気にしてもいけないと思っています。その人なりになんとか社会でやっていけているのであれば問題ないんです。それをことさら取り上げる必要は全くない。むしろ本当にその辛い状態を何とかみんなで支えようと考えています。少しでもそれから解放されて、自分らしく生きていけるようにお手伝いしようというのが僕らの考えなんです。


家族に対する不信や社会に対する不信というのは、やっぱり不安や生きづらさから来るわけです。ひきこもった時に親が理解を示さない。だから親は分かってくれないということで不信に陥ってしまいます。そうなると、「親も信じられない」「社会も信じられない」となるわけです。当然社会不安という形で社会に対する不信感もものすごく増えてきます。それを一歩ずつ解きほぐしていかなきゃいけません。先ずは親、家族からというのが僕らの考えなんです。最初の段階では歯車が回るようにするために、否定しないで受け止めます。「よっぽど辛いことがあったんだねと、我慢しないで家でゆっくりしなさい」と全部受け止めるということをやるのです。親の言葉で、「何で働かない」とかいうのは、否定すること、自分の価値観で見てるんです。親が理解できなくても、本人にしたらいっぱいいっぱいでそれどころじゃない、少しでも思いを寄せるんです。それが、本人の気持ちに寄り添うということなんです。家に味方が居なかったら誰を信じて良いか分からないでしょう。生きる縁(よすが)が無いんです。生きて欲しいというところから先ずこれをやろうと考えました。これがある程度できたと思ったら、信頼関係をもう一度作り直すということをするわけです。何でも話し合えてお互いに話ができる関係、つまり本人が辛いということを言える、素直にね。親に「これを言っても多分わかるだろう、聞いてくれる」と思えば、言ってくれます。だから先ず親のことをして、本人の気づきをだんだん引き出します。そうすると最終的に、本人が動き始めます。その時を信じて応援するということをやるわけです。親として何もしてないで見てるだけじゃない。本人の気持ちに寄り添った上で、信頼関係ができたら、初めて本人が動きたいことを応援するということで、背中を押します。本人にしたらものすごく気を遣ってますから、応援します。本人がしたいと思ったことをやろうと背中を押すのです。そうすると本人が動けるわけで、根本的には信頼関係ができてるから、本人もやれるわけです。いずれも、各ステップで全部、専門のカウンセラーなどのアドバイスをもらいながらします。歯車が全部ぐるぐる回るようになると、ご本人はここから初めて社会に出ていけます。やっぱり社会に対する不信感が少しずつここで緩和してきます。先ず家の中から信頼されますから、この社会において自分が必要とされるとわかったら彼はもう自由に動けるようになるわけです。


「地元でやってみたい」をサポートする

「継続して、何かあったらいつでも言ってね。また一緒に考えてお手伝いするよ」を地域に広げていこうというのが僕の考えなんです。地域住民の皆さんにも、暖かい目で、偏見じゃなく、理解していただく、見守っていただくだけでも全然違うのです。地域の皆さんに、甘えとか怠けとか、親の育て方が悪いなんていう偏見は捨ててもらって、元々さっきのような要因でひきこもる訳ですから、怠けじゃないんです。ちょっとでも地域の皆さんにお手伝いいただきながら、「彼が元気になることを周りで支えてほしいね」というのが基本的な考え方なんです。支えあいの精神に基づいた家族会ですね。それが僕たちの地域家族会の活動なんです。2001年の楽の会の設立から始まって、カフェ葵鳥(居場所)を立ち上げて、地域家族会の立ち上げとかもお手伝いしながらいろいろ活動を展開しています。


新しい団体の始まりは、茶飲み会。元々楽の会リーラの月例会が終わった後、皆さんお茶を飲みに行ったりするのですね。その時にたまたま同じ地域に住んでる人が居れば、二人で話し合いをしたり三人だったり。いろいろ話をしているうちに、「じゃあ何かやってみたいね」と。そんな時に僕らが、赤羽会(市川さんが副会長の地域の家族会)の例を紹介するのでモデルにしてやってみようかということになり、立ち上げてみようかとなります。


助成金をつかって、団体の行事に楽の会リーラの講師を派遣するとか、カウンセラーを派遣するとかできたので、それで立ち上げの機運が盛り上がってきまして。最初の場所は、皆さん苦労していて社協とか、ボランティア団体に登録して、それでそこを貸してもらうとか、いろいろです。


考え方で一番大事なことは、自分たちで作るということなのです。家族会も自主的に、しかも手弁当で。とにかく自分たちで、二人でも三人でも集まって、お互いに今の気持ちを吐き出すということをします。そこまできたら会にしよう、となって、会になったから何かやってみよう、となります。その時に初めて「こんな会やるので、場所について教えてくれませんか」と相談機関に連携のお願いに行くわけです。


今は、複合的に大変困難を抱えている家族が増えてきています。8050問題で高齢化していて、そうするともう病気が出てきたり障害が出てきたり介護があったり、もう様々です。ひきこもりだけじゃないのです。そうなると、ある1ヶ所や1つの団体だけじゃ無理なんです。いろんな業者や支援機関にしても、その家族にとって必要なサポートをいろんなところで受けないとダメなんです。そういう仕組みを作りたいんです。ひきこもり中心にやりたいです。家族会しかわからないことを発信して、地域で連携のネットワークを作って、いろんな家族が居るので、それを地域の皆さんに丸ごと家族を支えてもらいたいです。だからいろんな機関が連携する仕組みを作りたいんです。そういうネットワークを作りたいので一番大事なのはサポート体制なんです。


当事者活動を始めたい方へ

自分でこれから引きこもり状態の方を対象に支援活動をしていきたい方には、やっぱり気持ちに寄り添ってもらいたいです。とにかく否定しないで聞いてほしいです。いろんなところを辿って探しまくってやっとたどりついた方をむげに断るわけにいかないです。僕らは、仲間ですから。ただ、気持ちに寄り添うとか聞くというのはものすごく大事で、やるとキツイいんです。ケアする体制も整えなきゃいけない。ケアラーのケアが必要です。地域の家族の孤立を防止するために、地域家族会と地域資源との連携のネットワークづくりというのが一番大事なところですね。