市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

SIAb.(シアブ/Survivors of Incestuous Abuse)
お話:けいこさん

会のはじまり

SIAb.を立ち上げる前、私は性暴力被害の当事者グループに参加していました。「言いっぱなし、聞きっぱなし」のミーティングに参加しながら、心のどこかで他のこと、例えば、治療にまだ繋がれていない人たちに向けて何かできないかという思いがありました。それに性暴力被害のグループでは違和感もありました。例えば、レイプ被害の当事者と、近親者からの性虐待被害者とでは、なんというか、「感じ方・とらえ方」がちょっと違うなあ…という感じです。

そこで2013年、近親姦虐待に特化した自助グループ、SIAb.を立ち上げました。ちょうど性被害の問題に対して社会の関心が高まってきていた時期でもありました。


活動を始めるにあたり、まずは私たち当事者が「本当にいる」ということを社会に知ってもらいたいと思い、動画を作成し、ホームページに掲載しました。この動画はメンバーたちと制作したもので、一括りにされがちな性被害のそれぞれや、これまで発信されてこなかった近親姦虐待のコアな部分を当事者たちが語っています。そのような社会に向けた活動と合わせて、当事者が集まれる場も開催することになり、当事者が集まる「ミーティング」と、社会に働きかける「プロジェクト」活動の二本立てで始めました。当時、性被害の当事者グループはいくつかありましたが、近親姦に特化したグループはSIAb.が初めてでした。


私たちが大切にしていることの一つに「自分の力を再認識する」ことがあります。そういう被害に遭っても今まで生きてこられた自分の力を確認するということです。例えば、SIAb.の開催場所まで自分で「来る」ということも、回復の大きな足掛かりになるし、自分の力の再認識になります。一人ひとりのそういう機会を奪ってはいけないということを、私たちの基本的な考え方にしています。そして、今も日本全国からの参加があります。


一人ひとりの意思が反映するグループに

対外的な活動は広く発信をしていくことが必要です。一方でミーティングは、しっかりと守られ安心できる環境があって初めて自分の体験を語れる場です。これらを一つのグループの中に内包するのは、難しいと感じることもありました。


最初の頃、私自身が「SIAb.で回復して、SIAb.のために生きて行くんだ」と思っていました。それで、メンバーにも期待するものがあったのかもしれません。それにプロジェクトへの参加は自分の回復の証でもあるから、喜んで参加してもらえる…と思っていたら必ずしもそうではなかった。「ミーティングには出たいけど、プロジェクトには参加したくない」とか「対外的な活動への参加は恐い」という声を耳にすることがありました。さらに、私としてはミーティングの参加者もSIAb.のメンバーと捉えていましたが、SIAb.のメンバーと思われたくない人もいるということを後から知ったこともあります。コアメンバーや常連の参加者数人で話し合い、「プロジェクトの参加は有志のみ」とホームページに明記するだけでなく、「ミーティング」と「プロジェクト」は、しっかり分けて運営することにしました。さらにそれまで3つだったルールを、より一層「お互いに思いやる気持ち」を大切にできるように、より細かいものにしました。


他にも問題が起きたり悩みを抱えたりすることもあったのですが、ある時から「もうこれ以上できません」「お手上げです」「なるようになるまで、待つ」と吹っ切れました。相談できる人にSOSを出せたことで、そうなれたのだと思っています。言い換えるとSIAb.がお店で、参加者がお客さんのイメージで、「お店を選ぶのはお客さん」だから「私たちは、自分のお店を思うようにやっていればいいんだ」みたいな。お店も努力は、します(笑)。店を綺麗にするとか、美味しい物をつくるとか。でも最終的に選ぶのはお客さん。逆に、フレンチの店なのに「サバの味噌煮出してよ」と言うお客さんに困るのは当然のことで、無理にそれに応じることはないんだなと、今は思っています。


そういうことを通して、SIAb.についての考えも変わってきました。ある人にとってはSIAb.は通過点かもしれないし、ある人にとっては生きる糧になるかも知れない。そういう捉え方ができるようになったことで、SIAb.へのいろんな関わり方を受け入れられるようになっていったと思います。SIAb.の求める参加に合わせるのではなく、それぞれの人生にSIAb.を利用してもらう。そのために一人ひとりの意思が反映されるグループづくりをしないといけないのだと感じました。


今は、メンバーの提案で新しい活動が生まれることがあります。例えば、被害のことを聞いたり話したりしなくてもつながり続けられる場があるといいな…ということで「絵を描くワークショップをやりたい」という企画が実現したり、「絵は描けないけど、ペーパークイリングならできる」という提案から気軽におしゃべりをしながらものづくりを楽しむ場が作られたりしています。

また、最近では「初めて参加する人のための場を作りたい」という提案もあります。活動の年数を重ねてくると、初めて参加する人と長年参加してる人との間に、かなりの差や違いが生じてしまいます。初めて参加する人にとっては、そこにいるだけでも充分勇気がいることなので、その上、初めての場で自身の全てを話すのは大変です。そういう人たちは、同じ初めて同士で繋がる安心感を得ることが先で、それでやっと被害について語ったりできるのだと思います。そういう初めての人の「とっかかり」になるミーティングをやりたいと。


このように、今のSIAb.は、仲間の「やりたい」を応援するというスタンスです。もちろん新しいグループを立ち上げるのもありですが、新たな活動をSIAb.の中でやりたいという声が多いのは、もともと「近親姦」という括りの中だったら安心できるという私たちの実感があるからだと思います。SIAb.の中で「新しい活動を始めたい」場合は、「近親姦に特化する」ことと「SIAb.のルールを守る」ことをお願いしています。そして内容とか、会場とか、まずは自分で考えてもらって、そこから一緒に考えていく感じです。


ピアミーティング・ルール(2020.10.01)
  • 誠実に語る…今の自分で誠実に語りましょう
  • 傾聴する…他の参加者の話しを真剣に聴きましょう
  • 秘密保持…安全で安心できる場を維持するために、ここで語られたことは外では話さないでください

お互いに思いやる気持ちを大切に場と時間を共有しましょう


◯誠実に語る

いま、この場にいるあなたが語りたいことを語りましょう

キレイにまとめたり、結論を出したり、正義や悪で判断せずありのままを語っていいのです

これまで語ったことと矛盾しててもそれが今のあなたです

語りたくないとき、触れられたくないことはファシリテーターにそう伝えてください

◯傾聴する

他の参加者の話しを真剣に聴きましょう

だまって他者の語りを聴くだけでいいのです

自分と違う考え方や生き方でも、それはその人のものとして受け止めましょう

他の人が語ったことへの評価や批判やアドバイスをしなくていいのです

◯秘密保持と安心安全な場を維持する

安全で安心できる場を維持するために、語られたことは外では話さないでください

録音や撮影は禁止です

参加中は管理人やファシリテーターの指示にしたがってください

途中参加、途中退席は自由ですが、ディアローグのみの参加は不可とさせていただきます

思いやりの心を忘れずに、お互いを尊重しあいましょう

〇その他・マナーとして

飲食は、お借りしている会場のルールに従ってください。ゴミは各自持ち帰ってください。


「活動を始めたい」を支えたい

以前から、ミーティングは8名が限界かなと感じていました。一度、参加者が13名になったことがあり、その時は一人ひとりが話せる時間を十分に持てませんでした。でも参加したい人はたくさんいる、だからグループがもっと増えないと…という思いはありました。この思いが「活動を始めたい」を応援することになった理由の一つかもしれません。SIAb.のこれまでの歩みを振り返ると、いろんな人に応援してもらったり、つながりのある機関から情報をもらえたりして、ここまでたどり着いたと感じています。私たちの歩みをそのまま伝えていけば、これから始める人たちのヒントや勇気になるのかなあ、と思い始めました。


それに、SIAb.の参加者には「生きる力に有り余っている」みたいなすごいパワーを持っている人も多くいて、きっかけと後押しさえあれば、新しい活動を立ち上げられると感じていました。私自身もですが、何かやることがあったり、責任や社会とのつながりが増えることで自分自身の安定した状態を保てる場合もあります。力が溢れている人がそんな状況になったとき、きっと「活動を立ち上げたい」と思うのだと思います。


実際には、そうやって新しいグループを始めた方から、参加者が全然集まらないという声をきくこともあります。「始めたらワーッと集まってくれるかな、と思ったらそうでもなかった」と。でも経験的に、続けていれば信用ができてきて、参加してくれる人も出てくると思っています。SIAb.にも最近、5年越しでやっと参加できたという人が来てくれました。だから「今日は参加者ゼロかもしれません…」という落ち込んだメールが来たときに「継続は力なり!」とか、自分たちが経験したことを踏まえて返信をする、そういうサポートって必要かなと思っています。


活動の立ち上げに際して、まずはSIAb.の活動に参加して体験をしてもらうのがいいと思うのですが、遠方からの「地元で立ち上げたい」という声もあります。そういう場合には、SIAb.が出張して現地で一緒にミーティングやイベントをやるということを始めています。それで、そこに参加してくれた人たちと一緒に「ああ、こんな会がここにできたらいいな」と思ってすすめるのが一番理想です。私たちがずっと関わり続けるのではなく、そういう仲間とできるだけ自分たちでやるのがいいと思っています。だから、地元で相談できる先、例えば、ボランティア・市民活動センターや、男女共同参画センターなどにつながれるようなサポートを心がけています。


当事者活動の発展のために

しかし、いざ「地元で」となるとなかなか一歩が踏み出せないことも多いとわかってきました。近親姦というテーマ的にも、地域によって受け止めや反応は様々です。会場を借りるために実名と住所を書かなくてはいけないとか、施設利用登録をするために「自分が近親姦の被害者である」ということを濃厚な近所づきあいのある地域で話さなくてはならなかったり。「どんな団体? どんな活動? どんな人たちなの?」と、結構突っ込んで訊かれることもあって、そういう場所に一人で行って心が挫けることもあります。例えばボランティアセンターのスタッフが一緒に来てくれるなども心強いと思います。最近は「地域、地域」という世の中で、当事者活動にとってそれが縛りにならないといいなと思います。そのために、こういう活動には、公的機関の空いている教室や会議室などを、住んでいる場所に関係なく活動内容で判断して使わせてもらえるようになると本当に嬉しいです。


また、当事者活動に社会資源をコーディネートしてくれる機関があるといいなと思います。これが一番必要かもしれない。グループの外に、べったりじゃないけど、頼れる関係があるというのも、とても必要なことと感じています。SIAb.は、ほとんど自分たちでやってきたけど、すごく時間がかかったし、探すのにも限界があるので。


当事者活動を始めたい方へ

当事者活動を始めたら、それは「自分の店を持った」と思って、お客さんに惑わされないようにしてください(笑)。お客さんの意見を聞きつつも、それに縛られずに、自分たちがいいと思ったものを貫くのが、長く続けるコツだと思います。