市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

非正規雇用、シングル女性として生きるということ
篠田さん

正社員と非正規

もともと、正社員として働いていました。待遇はよかったのですが、当時は若さもあって、安定よりも自分がやりたい仕事をしたいと、3年目で退職しました。その後、アルバイトをしながら学校に通っていましたが、結果的にそのアルバイトが現在の仕事になり、フルタイムの非正規雇用で働いています。年齢を重ねていくと、人生設計やお金のことをどうしようか、という問題が見えてきました。また数年前、当時の上司と折り合いが悪く(パワハラも受けていた)、そういうときに非正規という立場がものすごく不利であることに気がつきました。20年近く、きちんと働いているのに、評価が得られないというモヤモヤもありました。


非正規雇用については、履歴書を書くときやクレジットカードをつくるときなどに実感することがあります。また、婚活をしていた時期に、結婚相談所の方から、「非正規なの?」と聞かれ、プロフィールの記入の仕方について変えた方がよい、とも言われました。職場では、勤続年数に対してとくに評価がなかったり、保障がないところが理不尽だと感じています。他の正社員よりよい業績を上げても、「そうか、良い結果が出たね」ぐらいです。


とは言え、正社員になったときに負う責任、お給料があがってもすごく仕事量が増えるので、賃金に見合うのかな、という気持ちもあります。自分が一度も正社員になっていなかったら、「(正社員に)ならなきゃ」という焦りがあったかもしれませんが、最初に勤めた正社員3年間がすごくつらかった経験があるので、そこから自由になった喜びがありました。ですので、現在は正規雇用になるというよりは、生きていくためのお金に対する不安の方が大きいですね。



職場の同僚や友人とも違う仲間に出会って

趣味の講座に参加することがあるのですが、そこで既婚者の方々とお話しするときに、「この人シングルなんだ」という目線を向けられることがあります。趣味の集まりなので、その話題で仲良くなりたいのですが、境遇が違うと、「ああ、そうそう独身だもんね。いいね、自由で」とか「お子さんいないんだよね」のように言われることもあります。こちらは仲良くなりたいのに、相手から「あなたは違うのね」という雰囲気になった時は、ちょっと悲しくなりますね。


あと、結婚していないということで、ちょっと面倒な対応をされたりすることがあります。例えば、シングルであることを伝えると、「まだ(結婚や出産が)いけるでしょ」と。それは気遣いでも、ほめ言葉でもありません。性別を問わず、「女性はこうあるべき」という固定観念が強い方が結構います。結婚している人になんで結婚したの?と聞かないのにシングルにはなんで結婚しないの?と聞くのです。不思議です。聞かれたくないことを相手に言わせないように話をさりげなく変えたり、うまくかわしたりなど、自分で避ける術は身につけてきたのかもしれません。


数年前、男女共同参画センター横浜フォーラムで、キャリアコンサルティングを無料で受けられることを知り、相談に行きました。その帰りに、35歳以上の非正規シングル女性を対象にした、「しごととくらしのセーフティー講座」のチラシを見つけ、参加することにしました。

講座内容は、非正規シングル女性にとっての健康や仕事、住まい、生活設計とお金の使い方など、今後暮らしていく上でどうすればよいかなどの話でした。一年を通じて開講されたのですが、参加者で話し合ったり、ワークショップをする時間があり、何人かと顔なじみになりました。講座が終わってから、一年間、フォーラムの会議室を無料で借りられることになり、数人に声をかけて一度集まりをもちました。そこで、みんなで話したり分かち合える場があるといいよね、と声があがり、じゃあ来月もやろうか、と続いていくうちに、現在の「にょきにょき会」の活動につながっています。


仕事のこと、住む家のこと、今後の人生などに悩んでいるとき、友人に相談するのとはちょっと違って。働き方や生活の仕方が、まったく同じではないにしても、メンバーとは悩みに対しての向き合い方が似ていたり、分かち合える部分がたくさんあります。また、職場の同僚には話せないことを共有できるのも大きいと感じています。グループには来なくちゃいけないという義務もないですし、お互い深入りしすぎなかったり、ちょっと離れることもできたり、そういう距離感がちょうどいいです。



いろいろな人に相談する

非正規という働き方には、副業がしやすかったり、自分のために時間とお金を使いやすくなるという面もあります。生きていく中でうまくいかないことがあったら、何でだろうというふうに考えることもありますが、自分自身では、非正規だから、シングルだからと、あまりラベリングはしていません。ただ、大人になると、仲間をつくるのが難しくなったりしますが、仕事や家族、学生時代の友人とは違う別の場所に仲間(にょきにょき会のメンバー)がいるというのは良いですね。好きなことや趣味などはそれぞれ違うのですが、非正規であり、シングルであったからこそできた仲間だと思っています。


自助グループをとおして、いろいろな価値観を勉強できたのが自分にとってすごくよかったです。「こうでなきゃダメ」ではなく、どんな人であっても相手の意見を尊重したり、みんなが個々の自分であることを尊重できる世界ですね。自助グループをやってみないとわからなかったです。小学校や中学校など教育の早い段階で、柔軟な発想をしたり、人生で必要なお金の使い方や、人とのつきあい方などを身につけられると良いのにと思います。また、親の介護が必要になったとき、どこに相談すればよいかとか、出産のこととか、学校の勉強以外に、早いうちから知っておいた方がよかったこともたくさんあります。そして、職場で、不満に感じていることを言えそうでなかなか言えずに、自分の中に抱えてしまうことってありますよね。自由に話し合える場がもっとあってもよいし、社会システムとして変えていった方がよいのでは、とも思います。


私の場合、職場で関係がうまくいかなかった上司がいなくなり、だいぶ楽にはなりましたが、パワハラを受けていた時期はもう何をするにも嫌で、とてもきつかったですね。市や県にある複数の場所に相談したり、どうにか解決しようと模索していました。今は、インターネットがあるので、迷ったときは調べることもできます。でも、どこから手をつければよいかわからないときには、臆せず、助けになる場所に相談してほしいと思います。一つの場所で一つの結論を出すのではなく、複数の場所に相談して考えることも大事ですね。一か所で何か言われたとき、そこだけがすべてだと心が折れてしまいますが、また別の違う意見を聞くことで考えなおせることもあります。心無い言葉や理解のない人、価値観の違いに対して我慢する必要はないし、我慢するところを間違えないでほしい。

今、生きているあなたが、あなた自身を裏切らずに大切にしてほしいと思います。