市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

グループ同士がつながること
~ セルフヘルプグループ交流会のあゆみ

東京ボランティア・市民活動センター(TVAC)では、当事者活動やセルフヘルプグループ(SHG)の設立・運営の相談に対応しています。その件数は年々増加しており、2018年度には、「当事者」相談やSHGに関する相談が、個人・グループ合わせて2400件以上も寄せられました。

今回は『セルフヘルプという力』の番外編として「グループ同士がつながること」をテーマにTVACの取り組みを紹介します。


運営の情報交換がしたい

「会場が借りにくい」、「運営資金に困っている」、「生活と活動の線引きができなくなってきた」など、SHG運営者の抱える悩みは様々あり、これらの多くは特定の分野やテーマのSHGに限った悩みではなく、多様な団体に共通する課題です。テーマや分野を越えて当事者団体の運営ノウハウや社会資源の情報などを交換し合うことができれば、多くのグループにとって、助けとなります。

発達障害や精神疾患など、一部のテーマの当事者活動においては、団体同士の距離がとても近く、人や知恵が行き来して、結果的に運営を支え合うことにつながっています。また、団体をネットワーク化して、当事者の声を社会や制度政策に反映させようという動きもあります。しかしそういった場合でも、他の領域・テーマの団体となると、なかなか出会いにくい現状があるようです。


TVACにも、「他の団体はどうしているのか知りたい」、「多様なSHGと情報交換してみたい」という相談が寄せられています。さらに運営以外にも「自分たち以外の“生きづらさ”を知りたい」、「他の人たちにSHGを始めた原点を聞いてみたい」という声が集まるようになり、SHGの交流会を開催するようになりました。

交流会には毎回、様々な障害・病気、暴力の被害、依存症、セクシュアルマイノリティ、「生きづらさ」を感じる人たち、介護者など多様なSHGの参加があります。緩やかなテーマでざっくばらんに交流しますが、「定期的に使える場所」や「上げられない参加費と足りない運営費の問題」、「増えない担い手」など、具体的な課題で盛り上がることも多くあります。終了後には「解決しなくても、運営者同士、わかり合えると心強い」、「同じような悩みを持っている人が、同じように頑張っていることがわかった」、「異なる経験をしている人とも『助け合う場をつくる』ことで『自分も相手も助かっていく』ことを目指していることが共通していると気づいた」などの声が寄せられ、運営者同士が交流することで、お互いの励みになり、活動へのエネルギーを得る場になっていることが伝わってきます。


SHG運営者の「孤独」

SHG交流会を開催する中で、運営者には「ノウハウ」以外のニーズがあることも見えてきました。SHG運営者の「孤独」です。


大抵のSHGはとても小さな規模で立ち上がります。SHGは、既存の団体から分かれたり、より一層細分化したテーマで新たに立ち上がることが多いため、「自分に合ったものがほしい」と動き出した数人がコアになります。実際にはたった一人ということの方が多いかもしれません。団体運営の経験がなく、いきなり活動がスタートしてしまうこともあります。そういった場合でも、他のグループをヒントにできたり、ゆっくり時間をかけて基盤を整えていくことができれば、それが大きな問題となることはないかもしれません。


しかし一方で、SHGに参加したい、相談したい、「こういうことをしてほしい」という当事者・市民のニーズはたくさんあります。立ち上がったばかりで運営基盤が整う前のグループにも、多くの期待や反応が寄せられます。それは、参加者の声だったり、人数の増加だったり、時に昼夜を問わないSOS電話や、クレームということすらあります。外からはグループの運営状態はわからないことが多いのですが、担い手が少ない状況は変わらず、ニーズだけが次々と寄せられることもあります。その結果、特定の人に負担が偏ったり、要望に応えるために無理に活動を広げたことに伴って収入と支出のバランスが崩れ、運営者の「持ち出し」が増えて生活を圧迫する事態になったり、人間関係にストレスや軋轢、しわ寄せなどが生じてしまいます。そして、疲弊しきって、活動を続けることができなくなってしまうグループがたくさんあります。


逆に、活動はしているのに参加者が全然来ない場合もあります。完全にオープンにはしたくないけど、必要な人のところには情報を届けたい…。そうした場合の広報や発信について、学べる機会や情報が少ないことも課題です。しかし、誰も来ない状態で、何年も場をひらき続けることには相当な労力とモチベーション、希望が必要になります。これも一人きりで続けるのは至難の業です。


「孤独」は既存のグループだけの問題ではありません。一年を通じて数えきれないほどたくさんのSHG・当事者活動が生まれていますが、同じくらいたくさんの活動が終わっていきます。その理由は様々ですが、活動の限界を感じると同時に、運営者の「ひとりぼっち」という状況が加わります。SHGが壁にぶつかった時、運営者は活動を続けながら、さらには自身の生活をしながら、一人で活路を見出すしかないのです。


そのような状況を「SHGには仲間がいるはずなのに、孤独だ」と表現した方がいました。その「孤独」には「グループの中に、運営の話をできる人がいない」、「当事者仲間なのに『ホスト』と『ユーザー』の関係になってしまった」、「運営者としてのグチを言える環境がない」など、運営を経験した人の多くに共通する背景があります。


「つながる」面白さ

2019年6月2日、SHG運営者の交流会「当事者同士横のつながりを深め、何を目指すのか?」が開催されました。この交流会は、これまでTVAC主催の交流会に参加をしてくれたことのあるいくつかのSHGが「自分たちで企画したい!」と、テーマを越えて一緒に相談を持ちかけてくれたところから始まりました。

過去の交流会でいろんな団体と知り合って、「これだけいろいろな活動があることに驚いた」、「自分たちと違うと思っていた団体と共通点があった」という衝撃から、「知り合うって面白い」と感じたそうです。

企画メンバーと5回にわたる会議の中で企画をすすめ、当日は31グループ、60名が集まりました。「なにを目指してSHGをしているのか」、「SHG同士がつながってできることを探ろう」などをテーマに語り合いました。その一部を紹介します。


私たちは、なにを目指して当事者活動をしているのだろう
  • 当事者活動は、共感と居場所、心のよりどころを増やしたくて続けている。自分自身の「居場所がなかった」「さみしかった」が原動力。
  • 寄り添い合って話すだけでなく、社会に向かって発信したい気持ちもある。自分たちの経験を社会の中で繰り返さないために…。
  • 一人ではできないことをグループになってやっていきたい。
  • 「社会へ想いを発信していきたい主催者」と、「参加だけでいい」「今は自分のことで精一杯」という参加者との間の温度差を感じることがある。しかし、仲間を排除したり追い出す訳にはいかないというジレンマがある。
  • 当事者が安心できる場をつくるSHG、社会に働きかけるSHG、両方あっていい。人にも、団体にも、いろんなステージがある。


最初は「お互いの運営のヒントが得られれば…」という目的で開催していた交流会ですが、最近はSHG主催によって開催されることも増えてきています。運営のことだけでなく、「自分たち以外の“生きづらさ”を知る機会になった」、「社会全体に目を向ける機会になった」という声を耳にすることも増えてきました。なにより、「SHG運営者の居場所になっている」との声からは、運営者の交流自体が共助的な意味合いをもちつつあるのではないかと感じることもあります。


そして、SHG同士が知り合う中で、具体的に課題解決につながる「つながり」も生まれてきています。例えば、活動頻度などから一つのSHGでは十分に要望に応えきれない方を、複数のグループで連携して受け止めることで、活動を無理やり拡大する必要がなくなったり、IT関係が苦手なグループのwebサイトを、得意なSHGが作成したりなど、可能性は無限大です。


TVACでは、これからも相談・情報発信等の事業を通じて、社会全体がSHGへの理解を深め、市民一人ひとりが当事者としてSHGの活動を行いやすい環境づくりをすすめていきます。

(相談担当専門員 森 玲子)『ネットワーク』362号(2019年)