市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

社会に声を届けよう!
〜 「メッセージ」という取り組み

本日のご相談

これまで月一回、同じ悩みを抱えた者同士が集まる場を開催してきました。直接会うことで、他では言えない辛さを吐き出せたり、気持ちを分かち合える時間は、とても大切なものでした。

新型コロナの影響で、「集まる」こと自体が難しくなりました。会場を借りるのも難しくなり、私達の活動は1年以上休止が続いています。

「オンラインでやればいいじゃないか」という声もあります。でも、インターネット環境のない人もいます。なにより、オンラインでは代えられないものが、当事者の集まりにはあるのです。どうにかそれを、多くの人に知ってもらう方法はないでしょうか?


NPO・市民活動団体が広く社会に呼びかけたり、発信したりする方法は多様にあります。もちろん、普段の活動、さらにはNPOの存在自体が社会に何らかのメッセージを発信していることは言うまでもありません。なかでもより一層「伝える/発信する」に特化した取り組みとしてイベントや集会の開催、デモ行進やパレードの実施、要望活動、署名運動、政策提言などは、様々な市民活動団体が力を入れているところです。

市民生活に危機的な状況が発生すると、そこに関わるNPOから「メッセージ」が発信されることがあります。コロナ禍においても、多くの市民活動団体等から「メッセージ」が発信されています。


大阪ボランティア協会

「新型コロナウイルスの影響下での市民活動に関するメッセージ」
http://www.osakavol.org/10/covid-19/message.html

日本ボランティア・コーディネーター協会

緊急メッセージ新型コロナウィルスの感染拡大を受けて」
https://jvca2001.org/post-3311/

KHJ全国ひきこもり家族会連合会

「新型コロナ感染拡大に伴うメッセージ」
https://www.khj-h.com/news/info/4258/


これまで通りの活動が難しい状況を前提としつつ、これらからは「つながること」や「支え合うこと」、「社会との接点を失わないこと」は、私たち市民の生活に不可欠であるというメッセージが伝わってきます。ともすれば必要性や事情があっても人が集まることが批判されかねないこの状況においても「何が大切なのか」を見失わないように、それを多くの人と確認しあうために、メッセージという形で声をあげています。


社会に声を届ける方法として

メッセージを発信するときには、「誰に対するものなのか」ということと、その「目的」(何を伝えたい・求めたいのか)を明確にすることが大事です。


例えば、認定NPO法人日本ボランティア・コーディネーター協会の「緊急メッセージ 新型コロナウィルスの感染拡大を受けて」は、冒頭「人と人のつながりを大切にするボランティアコーディネーターの皆さんへ」とあり、全国のボランティアコーディネーターに向けたメッセージになっています。そして、新型コロナウイルスの感染拡大が「人と人、人と社会を分断」し、「時には命を脅かす場面」が散見されることへの危機感から発信されました。「手を伸ばせば支え合えるのに、手をとり合うことを慎まなければならない今、私たちはどうやってその糸をつなぎとめることができるのでしょう」という言葉に込められているように、これまで地域に「つながり」を育み、社会「参加」の機会を多様にしていくことを大切にしてきたボランティアコーディネーターが、まさに役割や存在価値を見つめ直す局面にあったことが伝わってきます。

その上でメッセージは「私たちが普段のコーディネーションの中で積み上げてきた“初めてボランティアをする方への支援”や、課題解決を後押しする“ソーシャルアクション”の姿勢はこの局面でもきっと大きな力を発揮できるはず」と続きます。そして、全国で始まっているコロナ禍での「社会的孤立」などの社会課題に対する新たな試みの可能性を示し、それらの知見を整理し、「新型コロナウイルスの影響下でのボランティアコーディネーション」として発信しています。

このメッセージは、全国の仲間(ボランティアコーディネーター)たちに向けて、「分断」の危機にある今だからこそ必要とされている役割があること、そしてその(コロナ禍における新たな)方法も実践の中から作り上げられることを伝える力強いメッセージとなっています。


「仲間と会えない」のは、命にも関わる問題

今回の「ご相談」についても、セルフヘルプグループ(SHG)が「多くの人に知ってもらうために、メッセージを発信する」という視点で考えてみたいと思います。


SHGは、当事者団体・自助グループと呼ばれることもあります。例えば、依存症や障害を抱えた人、難病・疾病の患者、その家族や近しい人たち、犯罪・暴力の被害者やサバイバー、災害の被災者や避難者、出所者、施設や里親家庭で暮らしている子どもたち、若年層を含む多様な介護者(ケアラー)、生育環境や家庭の状況に課題や難しさを感じている人、性的指向・性自認に関する差別に取り組む人たち、日本語以外を母語とする人、大切な人を亡くした人、福祉や医療制度の「対象」ではないが生活上の困難や不便を感じている人たち…。様々な人たちの様々なグループがありますが、いずれも同じ経験をした人や、共通の状況を生きる人たちの集まりで、その本人(当事者)たちによって運営されています。


SHGは「特別な人」たちの集まりではありません。人は誰しも、多様な側面があります。例えば、「週3回のパートタイマーである」、「未婚である」、「食物アレルギーを持っている」、「ガンにかかったことがある」、「ひとり親である」などです。そういったことの一つ、あるいは複数の面を共通にする人たちの集まりとしてSHGはあります。


そして多くのSHGの場合、「生きづらさ」や困難、社会的マイノリティと無関係ではありません。なかには「障害」や、セクシュアルマイノリティなど、社会の障壁(バリア)や無理解、偏見などにより生み出された「当事者性」もあります。「機能不全家族の中で育ってきた」、「子どもの時から家族の(介護や支援などの)ケアを担ってきた」、「家庭内暴力を受けていた」など、外からは分かりづらい「当事者性」や「生きづらさ」もあります。SHGは誰にとっても意外と身近なものなのですが、まだ十分に認知されているとは言い難い状況にあります。

SHGの活動内容は、グループの目的によって様々です。とりわけ、会場を借りて集まり、ミーティングや分かち合いなどと呼ばれる場を開催しているグループは多くあります。ミーティングに通っている方の「SHGでなら、ありのままのことを話せる」、「うん、わかるよと、言ってくれる人がいて心強い」という声を度々耳にします。「月1回のミーティングがあることで、日々を生き延びられている気がする」とおっしゃる方もいます。SHGのミーティングは仲間と話したり、経験や気持ちを聞きあったりすることを通して、お互いに「私だけじゃない」、「一人ぼっちじゃない」という実感をもてる場として、さらには多くの人の居場所として、様々な「当事者」の日々を生きる支えになっていました。


コロナの感染拡大に伴い2020年2月以降、多くの団体が活動を休止しました。感染リスクが高いメンバーがいる等の理由から早めに休止を決断したSHGもありました。4月になると、コロナの影響で新たに発生・浮き彫りになった「危機」に取り組むNPOを除き、結果的にほとんどと言っても過言ではないほどの市民活動団体が、一部もしくは全ての活動の休止を余儀なくされました。5月の緊急事態宣言終了後、活動を再開する団体も徐々に増えていきました。SHGにおいては、オンラインなどの新しい方法を取り入れて再開するところも増えていますが、実際に集まる場を再開できているところは多くありません。


再開できない理由の一つが、会場の問題です。多くのSHGでは、参加費を無料や数百円の設定にしています。そして、利用料が比較的安価な公的施設を利用していました。その公的施設が長期間閉館になったり、開館した後も人数制限・利用制限があり、活動に適した会場を確保することが困難になりました。これは、他の市民活動団体も同じ状況にあります。

それに加え、SHGならではの状況として、参加者の「匿名性」を守るということがあります。参加するのに申込みが不要だったり、本名や連絡先をグループに伝えることなくニックネーム(アノニマスネーム)で参加できるSHGが多くあります。自分が「どこの誰なのか」を明かさずに参加できることで、少しでも参加しやすいようにする工夫です。ところがコロナ以降、これまで代表者の連絡先だけで利用できていた会場でも、利用者に感染が判明した場合の連絡等の目的で「事前に参加者全員の名簿(本名・連絡先含む)を提出すること」などを利用条件にするケースが出てきました。さらに、密集を防ぐために会場の定員が大幅に減少されたことは、「予約不要」の運営が難しくなることを意味しています。当日の人数の見込みが立たないためです。このような「会場」に関わる様々な変化により、SHGの多くがこれまで通りの運営方法では再開が難しい状況に直面しました。


そして、もう一つの大きな理由が、「外からの目」です。TVACには緊急事態宣言中から「仲間がまたアルコールを飲み始めてしまった」、「一人で苦しい思いをしている仲間がいる」などの悲痛な声が届いていました。そして仲間同士が支え合える場の必要性と同時に「当事者の集まりでクラスターが発生したらさらなる差別やバッシングをされるのではないかと思うと、怖い」、「活動を再開したら、二重に差別を受けることになりそう」と話される方が何人もいました。


オンラインでミーティングを開催しているSHGも増えています。それにより、遠方の人や体調により家から出られない状態の人などもSHGに参加できるという利点があります。しかし同時に、インターネットが使えない、家族が近くにいる環境では話せないなどの理由で取り残されてしまう人がいることを課題に感じるSHGがあります。さらに、仲間の話を聞きながら「そうなんだよね…」とつぶやく、「うんうん」とか「わかる…」と声をもらす、そして話し手がそれを感じることで「一人じゃないんだ」と思える場をつくることなどは、画面越しでは難しいことでもあります。


「人と会えなくてさみしい」、「家にいるのが苦しい」。

一人きりで症状の悪化や孤独感に苦しんでいる仲間を目の当たりにして、仲間とつながれる場がないことは、「命」に関わる問題だと実感する人たちが、勇気をもって、声をあげようと決心しました。


共同で「メッセージ」を発信する

「コロナ禍における居場所についての共同メッセージ」(発起人:生きづらさJAPAN、ReOPA、YPS横浜ピアスタッフ協会)の取り組みをご紹介します。

これは、コロナ禍の社会的状況を踏まえた上で、それでも「当事者同士が集まること」のもつ意味を多くの人(メッセージの対象)に知ってもらいたい(メッセージの目的)と、多様なSHGが分野やテーマを越えて連携して取り組んでいるものです。


TVACには、2020年9月に、うつ病や双極性障害の当事者団体から最初の相談が寄せられました。「換気・人数制限・消毒などできる限りのコロナ対策をしていても、当事者会をやると『なぜ集まるのか』と、非難されてしまう。会場も匿名性を守れなくなってきているし、万が一感染が発生したら二重の差別を受ける怖さもある。でも、私達は、同じ思いを抱える仲間とつながることで、自分自身と向き合う力やそこから進んでいく力を得ていける。だからこそ居場所があることは、コロナに感染しないことと同様、生きるために重要。そのことを多くの人に知ってもらいたい。そして、感染対策をしながら少人数の当事者が語り合うことを、責めない社会になってほしい。コロナ禍においても、生きづらさを抱えた当事者が、孤立せずに生きていけるようにしたい。そのために、社会にメッセージを発信することはできないか」


複数のSHGが、共同でメッセージを発信する。

それは、コロナ禍において改めて居場所の重要性・必要性を感じ、この危機に「私たちにできることは何か」、「今まさに危機的状況にある仲間のために何ができるのか」、ということを考え、見出した方法でした。


そこから発起人を中心に、様々な団体や人の意見を取り入れながら「メッセージ」を作っていきました。その過程では「当事者とは誰かを具体的に書いた方がいいのではないか」、「誰に向けたものなのかわかるようにしてはどうか」、「闇雲に集まることを推奨しているわけではないことは書いておきたい」、「目的を明確にしたほうがいい。理解してほしいのか、支援が欲しいのか」など、様々な意見が出ました。約半年かけて文章を練り、多様で多くのSHGが共通に使えるものにしたいという思いで、仕上げていきました。そして、発起人団体がWebで文章を公開すると同時に、主旨や内容に賛同するSHGを募集することにしました。


このメッセージは、目的をある程度限定せず、賛同した各団体が必要に応じて自由に活用することができるようになっています。「SHGの活動について知ってもらうためにボランティアセンターに渡したい」、「会場に名簿提出について相談する時に使いたい」、「オンラインの参加者から人と触れ合う機会が欲しいとの声が上がっている」、「うちはオンラインで十分だけど、他の団体の応援のために賛同したい」などの声が届いています。


賛同団体を募るための広報は、自分たちとつながりのあるSHGに知らせるだけでなく、社会福祉協議会、ボランティア・市民活動センター、男女共同参画センターなどにも協力を呼びかけました。TVACをはじめとする中間支援組織が間にはいることで、さらに多くの多様なSHGに情報を届けることができます。発起団体は同時にいくつかのメディアに「プレスリリース」を流し、できればメディアで取り上げてもらいたいと、依頼をしています。なにより、この「賛同の輪を広げる」プロセス自体が、今回のメッセージの目的の一つである、当事者にとっての居場所の重要性を知ってもらうということにつながっています。


***


今回は、SHGが共同して社会にメッセージを発信する取り組みについて紹介しました。この方法は、SHG以外の市民活動団体にとっても参考になる取り組みではないでしょうか。


例えば、感染拡大の防止のために「集まって、おしゃべりしながら、みんなで食事をする」ことを避ける必要がありますが、子ども食堂の活動においては、どうでしょうか。子どもたちが壁側を向いて、誰ともしゃべらず、一人で食事をし、食べ終わったら速やかに帰宅する…。それは、子ども食堂が目指しているコミュニケーションのあり方とかけ離れてしまっているかもしれません。しかし、コロナが子どもたちの生活にも新たな課題をもたらしている今、子ども食堂が担ってきた「食事を提供する場」だけでない価値・必要性を発信していくことは、これまで活動してきた人たちにしかできない取り組みです。


NPOは地域社会やそこに暮らす人びとと密接に関わっているため、今社会に起き始めていること、これから課題・問題となりそうなことに真っ先に気づく存在です。そして、NPOには、様々な発信する力、人々の心を動かし社会を変えていく力があります。未だ、先の見えない日々が続いていますが、ぜひ多くのNPOからメッセージが発信されていくことを願っています。


(相談担当専門員 森玲子)『ネットワーク』371号(2021年)


*「緊急メッセージ新型コロナウィルスの感染拡大を受けて」認定NPO法人日本ボランティア・コーディネーター協会 https://jvca2001.org/post-3311/

*「コロナ禍における居場所についての共同メッセージ」(2021年2月、発起人:生きづらさJAPAN、ReOPA、YPS横浜ピアスタッフ協会) https://ikidurasajapan.club/info/detail/info_id/56