市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

オンラインの活動って、どんな感じ?
~ セルフヘルプグループ(SHG)の場合

東京ボランティア・市民活動センターには、さまざまな団体から相談が寄せられています。新型コロナウイルスの影響は、当事者主体の活動をしているSHGにも大きく及んでいます。SHGは、当事者同士が出会い・つながることを大事にしており、直接会う活動を主にしている団体も多く、これまで通りの活動が全くできなくなってしまったグループも少なくありません。さらに、難病等で感染リスクの高いメンバーがいるSHGは、他のNPOよりも早い時期から影響を受けていました。運営メンバーと参加者の「安心安全」をどのように守っていくか、活動の再開に向けた判断は容易ではないと思われます。


一方で、SHGの活動は、たくさんの「当事者」「市民」にとって、なくてはならない存在です。月に数回のSHGの集まりで仲間に会えることで日々を過ごせている方もたくさんいます。その大切な場が休止となり、再開の見通しも立たない…。「仲間が昼間からアルコールを飲むようになってしまった」「ゲームに依存してしまって家から出ていない」という声も耳にするようになりました。そのような中、多くのSHGが、今できることや新たな活動の仕方を模索しています。


SHGに対する新型コロナの影響

一部のSHGは、他の市民活動団体より早い時期から新型コロナウイルスの影響を受け始めていました。最初に相談が寄せられたのは2020年2月のことです。それから徐々に、活動を休止する団体が増える一方、当事者が集まる場、いわゆるミーティングなどは3月まで、対策をとりながらなんとか開催したという団体もありました。「この活動が支えという人たちがいる」という切実な理由からでした。3月になると早くから活動休止をしていたSHGから「疲れた」という声が寄せられるようになります。緊急事態宣言が出された4月には、活動再開の見通しが立たないことへの不安や、グループの存続に関わる相談が増え、同時にオンラインの活用を模索する団体も増えてきました。


(2020年5月時点)

SHGに対する新型コロナウイルスの影響
  • 何もできなくなってしまった。
  • 活動の中心であるミーティングが3密のため開催できない。
  • 数人だけでも…と思ったが、普段借りている会場が閉館になった。
  • 会の収入がなくなってしまった。
  • イベントを中止したが、チラシ印刷費はすでに支払い済み。会にお金はなく、赤字(個人の持ち出し)のまま。
  • コロナに対する感覚がみんな違って、今後を話しあうのが難しい。
  • これまで通りのコミュニケーションができなくなったことで、運営メンバー間にも距離が生まれてしまった。
  • 先の計画を立てられない、予定を考えられる状況にない。
  • グループにつながったばかりの方と、交流が途絶えてしまった。
  • 参加者にはこの活動が「居場所」だったこの活動が断絶してしまった。
  • 法人格もなく、規模も小さく、寄付頼みだったので、公的な支援策の対象にならない。
  • 活動をしなければ支出はないので、運営面のダメージはない。
  • コロナの影響による家族間の軋轢に関わる相談が寄せられるようになった。
  • 性暴力等の危険度は増しているが、ロビイングができない。
  • 当事者運動体としては暇になった。


(2020年5月時点)

心配していること
  • 参加できる活動がなくなり、会員離れが進む。
  • 活動を再開しても、感染への不安で参加できない人がいるかも。
  • 感染リスクが高いメンバーが多く、再開の判断ができない。
  • 実際に会うことを大切にしているため、この先どのように活動していけばいいのか…。
  • 活動休止により、相談・励まし合いの機会がないことで、深刻さが増していく人がいるのではと心配。
  • この状態が長引くと、精神的に調子を崩してしまう人が増えてしまうのではないかと危惧している。
  • 「閉じこもり」状態の人が多いので今はなんとか過ごせている。しかし、このまま状況が長引けば、個々の生活に新たな問題が発生しそう。



SHGにおけるオンラインの活用

SHGにおいては、①運営メンバー等の会議、②学習会やセミナー、③情報発信、④交流会・懇親会、⑤相談事業、⑥当事者ミーティング、の6つの場面において、オンラインツールの活用がみられます。


①運営メンバー等の会議

まずは「運営メンバーの会議」から導入するグループが多いようです。使用するツールは様々で、LINEのビデオ通話など普段使っているアプリを活用することもできます。会議や打ち合わせなど、運営面での導入を通して活動への活用を検討することもあります。活用した団体からは「思い立った時すぐに会議ができて便利」「(疾病等が)重い状態のメンバーも家から参加できる」という声もありますが、「画面越しだと雰囲気がわからない」「話し出すタイミングがわからない」「顔は見えているけど、なぜか孤独を感じる」などの声もあがっています。特徴的な取り組みとして、スタッフの個人的なできごとや雑談だけをする回を設けている団体もあります。SHGはピア(お互いが対等な仲間)であることが基盤ですので、会わなくなることで減ってしまったメンバー間のコミュニケーションを意図的に補おうという試みです。


②学習会やセミナー

「学習会やセミナー」への活用は、比較的しやすいようです。講師・事務局・参加者全員が自宅等から参加している場合もあり、世界中どこからでも画面を通して講義を聞く・見ることができます。参加者とのやり取りを減らし、質問はチャット機能で受けるなどほぼ一方通行の発信に絞ることで、慣れていない事務局でも少ない負担で実施できます。オンラインのセミナーを開催したことにより、遠方からの参加も可能になり「参加者が増えた」と感じている団体が多いようです。

一方で「案内メールが先方の携帯にうまく送れない」「使い方を説明するのに時間がかかった」「セミナー受講後のつながりには結びつかなかった」など、手間が増えたり、これまでの講座に期待する効果が得られなかったりすることもあるようです。時々「オンラインセミナーだと、参加費の受け取りが難しい」という声を耳にしますが、最近では、法人格のない任意団体でも数百円からの支払いに利用できるオンライン決済があり、実際に利用しているSHGもあります。

実際の開催では、資料の取り扱いと質問の受け方、カメラについて悩むことが多いようです。資料は、事前に紙で配布しにくいですが、当日、画面で資料が見られるようにするだけでなく、著作権等についても留意が必要です。


③情報発信

情報発信を積極的にはじめたSHGもあります。You Tubeで自身の体験や仲間との対談を発信したり、SNSにメンバーが「つぶやき」を書いたりという取り組みです。コロナ禍で生活が大きく変わって、苦しい思いやしんどさが増している人たちに「一人じゃないよ」を届ける活動です。実名や住所をお互いに明かさず活動しているグループにとっては、仲間とつながり続けるための活動でもあります。

ただ、大変残念なことですが、個人的な体験を動画を通じて発信をしていると、時にいわれのない嫌がらせを受けることもあります。自分や大切な人を守るためにも、どこまでの情報を出すのか、書き込み欄をどう取り扱うかなど、発信の基準を決めたり対策を話し合っておくことなども重要です。


④交流会・懇親会

交流会・懇親会については、オンラインでやるのが難しい…という声が多くありました。いくつかの団体は、匿名参加ができるオープンチャットを活用したり、Zoomの機能をつかって小グループに分かれた交流会を実施しています。オンラインの弱点は「大人数では話せない」「“あなたと話したい”が難しい」という点にあります。メリットは、リアルな交流会では座った席の「近くの人としか話せなかった」ということがありますが、オンラインではお互いの距離は一定のため、誰とでも話す機会があるという点です。


⑤相談事業

SHGの中にはミーティングの休止に伴い、期間限定で相談を受けているところがあります。相談の方法としては、電話やLINE、Zoomが多いようです。メールは「すぐに返信がきて、やり取りが増えて大変になってしまう」という声がありました。それに対して、オンラインの相談は、時間を限定して対応することができます。一方で、家の中からは相談できない利用者も少なくないため、「相手が押し入れの中から相談してきた」「車の中からスマホで連絡してきた」という状況もあります。オンラインミーティングへの参加に不安がある方や、切羽詰まった状況に置かれている方にとっては、SHGが相談を受けてくれることは大きな救いとなっています。切迫した相談が寄せられることになるSHGにとっては、適切なつなぎ先の情報が重要になります。


⑥当事者ミーティング

当事者の集まり(ミーティング)は、多くのSHGにとって中心的な活動ですが、安心して話せるよう閉じられた空間で開催されることが多く、再開のめどが立たない団体がほとんどです。最も再開が望まれる活動でありながら、オンライン化について最も慎重に検討されている活動です。当事者ミーティングを取り巻く現状について、ご紹介します。


(2020年5月時点)

当事者ミーティングの現状
  • ミーティングは休んでいるが、これができないとなると、会の存在意義があるのか…。
  • 参加人数が多くリアルな場で「密」にならないように開催するのは大変。定員を減らして回数を増やすのは事務局の負担が大きく、オンラインに切り替えた。
  • 参加の垣根を下げるために、事前申込不要でやってきた。毎回参加者が違うし、人数もわからないため、オンライン開催はできない。
オンライン化についての心配
  • オンラインミーティングを体感した人は、再開後、リアルな場に足を運んでくれるだろうか。
  • オンライン開催のために申込制にしたら「匿名性」を担保しにくいのではと懸念。
  • 信頼関係がないと成り立たない場なので、オンライン開催でどこまで可能か…。
  • その場にいる人の話を聞いてから「話す・話さないを決めていい」というあいまいな参加を大切にしてきたので、オンラインで「順番に話す」スタイルはそぐわない。
  • 団体の性質上、当事者でない人が入ってこられないようにしたい。
  • 画面の向こう側の様子がわからないことが不安(誰が聞いているか)。
  • リアルな場と違って、オンラインミーティングは、外から部屋の中の様子を伺ったり、のぞき見することができず、ハードルが高い。
安心して話せる場をつくる工夫
  • いつもより規模を縮小して数名でオンライン開催している。希望者は多いが、団体としてちゃんと運営できる規模で開催。
  • 普段のグラウンドルールに加え、オンライン用のルールを追加した。
  • 音声や画面の録音はしないことをルールにしている。その場だけで流れて消えていく話だからこそ、気楽に話せる。
  • 事前申し込みをしてくれた人に招待メールを送っている。
  • 待機室機能を使い、そこで事務局とチャットしてから入室してもらっている。
  • 初めての方は、まず10分お試し参加などができるようにしている。
  • スタッフが誰でも進行できるように、オンライン用台本を作っている。
  • 聞いていることが伝わるようにうなずくなど、反応に気を付けてしている。
  • リアルな場では、人の話を聞いているときに「うん、わかる」とか「そうなんだよねー」というつぶやきができたり、聞けたりすることがとても大事だった。オンラインでは、チャット機能を使って、いつでもなんでもつぶやけるようにしている。
  • 主催メンバーは、参加者の様子全体が見えるようにギャラリービューにして、参加者一覧、チャットとともに注意を払う。結構、気を遣う。
オンラインミーティングのトラブルと対応
  • ハウリング対策だけでなく、生活音やカフェなど周りの音が大きい人への対応として、ホストがミュートを管理する。
  • イヤフォンとPCの相性によっては、話していてもマイクが音を拾わないことがある。または、初めてでなくてもうまく参加ができないことがある。いろんなトラブルを想定して、開始時間より前から待機している。
  • 事前に練習会を開催する。
やってみて気づいたこと
  • オンライン開催になり参加費を受け取れなくなったが、むしろ無料だから気軽にできると感じている。
  • オンラインの方がよく発言してくれる人がいる。
  • オンラインで集まっても、結局コロナの話をして終わったりしているが、同じ仲間と話せる場があること自体が求められていると感じている。


(2020年5月時点)

顔をだすか、出さないか

当事者ミーティングのオンライン化を検討する際、しばしば「難しい問題」として挙がるのが「顔を出しての参加を必須とするか」「顔を出さなくても参加できるようにするか」ということです。これは、主催者の判断として事前にルールを決めておいた方がいいのですが、団体内でもいろいろな考えがあって一つに合意するのは簡単ではないかもしれません。参考までに、いくつかの団体の例や考え方を紹介します。

《顔を出すことを必須としている》

  • 初めての参加者には、事前に運営メンバーが面談をしている。顔を出したくない場合は、マスクまではOKとしている。
  • 運営メンバーの安心安全を守るためにも、全員が顔を出して参加してもらう必要があると考えている。
  • あくまでもみんなで集まる代わりのオンラインだから。

《顔を出さなくても参加できる》

  • 基本的には本人の判断にゆだねている。家庭の都合もあるため。
  • 参加のハードルを下げるために、顔は出さなくても参加できるようにしている。
  • 主催メンバーも顔を出していない。自己紹介は必須にしている。
  • 顔も音声もNGで、チャットだけなら参加できるという人がいたため。
  • 参加者にも事情があると思うので。


オンライン活用の課題

誰にとっても便利…ではない

オンライン活用の大きなメリットは、遠方からの参加が可能なこと、自宅から出るのが難しい状況の人も参加できること、交通費と時間の削減ができることです。

一方で、インターネット環境がなかったり、スマホなどを持っていない人たちもいます。また、「家族に聞かれたくない」「“当事者”であることを知られたくない」「自宅のパソコンは家族と共有」という人も少なくないため、誰にとっても参加しやすいとは言い難いのが現状です。

音声でのやり取りが主になることもあり、団体からも「多様な人への配慮が保障できない中で開催するのは、望ましくない」「スマホがない人たちが、つながり自体から抜け落ちてしまわないか危惧している」などの声を耳にします。同時に「スマホはあるけど、絶対にオンライン会議はしたくない」という人もいます。


〇 ファシリテーションが大事

オンラインでの活動では、ファシリテーターの役割が重要とされています。参加者の様子を見ながら進行をしたり、話している人に「聞いているよ」と反応をしたり、チャットを確認したりと、広くアンテナを張る必要があります。「誰でもできるわけではない」「人により、場にばらつきが出てしまう」など、苦労している団体が多いようです。また難病等の当事者団体からは、「疲労が激しい」「1時間が限界」という声も聞かれます。


これからの当事者活動

現在、多くの団体で導入・検討が進んでいるオンラインによる活動ですが、当事者団体・SHGには、オンラインに代えられない活動や価値も、たくさんあります。オンラインでは参加しにくい仲間もいます。

この先、リアルな集まりを再開するグループもあれば、これを機にオンラインに切り替えるグループ、両立させるグループもあります。感染発生時の連絡用などの目的から、予め会場に参加者名簿の提出などを求められることもあります。そういったこともあり、会場予約や準備など、リアルな集まりに負担を感じていたグループからはオンラインは負担が少ないという声もあり、オンライン導入が活動継続につながることもあるようです。

オンラインを活用し、多様な当事者団体が連携してテーマや分野を越えたつながりをつくろうという試みも始まっています。今後ますます当事者活動の多様化がすすんでいきそうですが、それが結果的にSHGを選択しやすい環境につながっていくことを願っています。最後に、今後に向けてのSHGの言葉を紹介します。


  • 活動が全部オンラインで代替できるということにはならない。人と人の関わりや癒しの感覚、そういうものを失わないようにしていきたい。
  • 今できることは、自分たちが元気でいること。「いつか再開する」という決意。

(相談担当専門員 森玲子)『ネットワーク』366号(2020年)