市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

「非行」と向き合う親たちの会
あめあがりの会

「あめあがりの会」は、子どもの非行*や行動で悩んでいる親の自助グループとして、1996年にスタートしました。

会を立ち上げ、代表を務めている春野すみれさんに、会のスタートから20年にわたる活動についてお話を伺いました。


はじまりの物語 ~同じ思いの親たちに会いたい!

春野さんは「自身の子どものことをきっかけ」に、会を立ち上げた。当時、春野さんは子どもの非行について悩み、いろんな相談機関に行っていた。しかし、思いが伝わらないと感じることが少なくなかった。

「『お母さん、もうちょっと頑張ってください』とか『厳しくしすぎているんじゃないか』とか、『もっと優しくしてあげたらいいじゃないか』とか。相談機関などでは分析を一生懸命されるけれど、そんなことじゃなくて『今日子どもが帰って来ないかもしれない。それをどうしたらいいですか』ということを相談したいのに、自分のことや自分の子育てを分析されるばかりで、思いが伝わらず、本当に傷ついていました」と春野さんは語る。

あめあがりの会に参加される人の多くが、春野さん同様、「『あなたは優しすぎるんじゃないですか』『固すぎるんじゃないですか』『お母さんがこんな仕事しているせいじゃないですか』なんて、みんな言われてやってくる」と言う。

当時、今と比べ、少年の補導件数や逮捕件数は非常に多かった。「じゃあ、その親たちは、どうしているんだろうと不思議で。みんな私みたいに死にたくなっちゃうのかしらって。そういう人の話を聞いてみたいなってすごく思いました。どういう風に生きているの、どうやって乗り越えているのっていう」

それが最初の気持ちだった。しかし、当時、「非行」の子をもつ親の自助グループはなかった。春野さん自身も「自分の子が非行になるなんて思っていなかった。そんな話を誰かにしていいんだろうか」という思いだった。「子育てにうまくいかなくて困っているといっても、世間からは下手な子育ての結果で、自業自得じゃないかという見方もあるわけで、そういう人たちが集まることに対して社会がどうみるか、自信がなかった」という。

1996年11月、春野さんは立ち上げ集会を実施した。当時の参加者は、新聞に掲載された「非行」の親の会の開催に関する記事を見て集まった人が大半だった。参加者の多くは、子育てや子どもの非行に悩む中で「大体、人が考えつくようなことは考えてきたし」、できるかぎりのことを「誰かに言われなくたってやっている」。それでもうまくいかず、困っている人が多い。春野さんと同じように傷ついた思いを抱え、あめあがりの会にたどり着く。そうした同じような経験を抱えていると「やっぱりわかりあえる」と春野さんは語る。


ここにいていいんだと感じられる場を

あめあがりの会では、例会を開催している。この例会は、月5回、都内や近隣県で行われている。意見をしたり、アドバイスをしたりする場ではなく、自由に話ができる場所だ。参加者は、みな自身のことを自由に話していく。その中では子どもが「少年院に入っちゃっている」「強盗致傷事件を起こしてしまった」という人もいれば、「学校に行かなくなってしまって、暴言を吐いたり、ピアスをつけたり」という人もいる。一見、程度も悩みも全く違うことのようだが、春野さんは「辛さについてはわかりあえる」という。

同時に、その時々のテーマや、関心に応じた勉強会も開催している。

活動の5年目には、合唱団や劇団ができた。参加者の中には、例会のような人前で話をすることが苦手な人もいる。そういった人は、活動資金づくりのためのペンダント作製や、パソコンの入力など、本人のやりたいこと・できる形で参加している。そうすることで「ここにいていいんだって、感じてもらえたらいい」と春野さんは言う。


マイナスからゼロへ、ゼロからプラスへ

春野さんは、会を立ち上げてから「こういう会をつくって良かったんだ」と思えるようになるまで1年かかった。参加者の「こういう会を求めていた」「こういう場が欲しかったの」という声や、全国各地から1人で会にやって来て、参加する姿に「胸がいっぱい」になった。「会を立ち上げてから、例会をやって、人に会って、話をすることを重ねていく中で、私自身が癒された。本当に信頼されているんだっていう思いと、人は本当に信頼できるんだっていう思いとが蓄積していって、1年くらいかけて自分の中にあったマイナスのものがゼロになり、ゼロからプラスになっていきました」。

会の立ち上げから今年で20年。春野さんは「1人で孤独を感じていたら歩けない。『助けて』って言ったら、助けてくれる、わかってくれる人がいる。それを知るだけでエネルギーになる」と言う。


* 非行とは、①よくない行い。②特に青少年が、法律で禁じられたことや社会規範に反したおこないなどをすること(三省堂 大辞林、2006年)。本文では、たばこ、夜遊びなどを含む広義に用いている。


「非行」と向き合う親たちの会 あめあがりの会

http://shiochanman.com/hikou/

子どもの「非行」に直面した親たちの例会の開催、会報の発行、公開学習会の開催、自助グループの立ち上げなどを行っている


キーワード 非行/子ども/家族

メンバー 当事者、支援者

活動内容 サロン、相談、学習会、会報の発行

活動エリア 都内、近県

相談 あり

集まれる場所 あり

他団体との連携 あり

連絡先 TEL 03-5348-7265(非行克服支援センター内)

*『ネットワーク』344号より(2016年10月発行)