アスペルガー・アラウンド
「アスペルガー・アラウンド」は発達障がいや、その傾向にある人と関わることで心身に影響を及ぼす「カサンドラ」状態にある人のサポートをしている団体です。代表のSORAさんにお話しを伺いました。
はじまりの物語 ~カサンドラのその先に~
アスペルガー・アラウンドは、共感を分かち合うだけではなく、当初より「カサンドラ」状態からの脱出をめざしてスタートした。
「私の夫と子どもは約15年前に発達障がいの診断が出たのですが、その頃は今ほど大人の発達障がいは知られていませんでした」。SORAさんが夫や子どもの障がいを受容できたのは、自身が美術科の教員として特別支援学校で働いていた経験が大きいという。「生活の中に障がいのある人とのふれあいがあって、一緒に生きていくものなのだという土台がありました」。
ただし、「多くの人は、障がいと無縁の生活をしていて、家族にまさか障がいがあるとは思えないと思います」そのような状態で、パートナーなど身近な人の態度や行動に傷ついたり、苦しみ続けてしまうことがあるという。「障がいに対する理解が十分にできていないと、パートナーの言動を障がい特性として受け止められず、自分を責めてしまったり、パートナーへの怒りが募ってしまうのです」。
また、ASD*を持つパートナーの愚痴をこぼすだけでは、社会に理解されないと思い、きちんとカサンドラやASDのことを理解し、パートナーとの関係性を変えることで、本当の意味での脱出になると思い、活動を開始した。
だからこそ、活動の参加者には、「カサンドラのその先はなんだろう」という問いかけをずっとしているという。
自分が楽になるためのことを優先して良い
活動はステージ1~3と段階的に分かれている。ステージ1では同じ仲間とつながる。パートナーとの日常生活の問題や困難に関するそれぞれの思い、悩みなどを分かち合う「しゃべりば」や関連書籍を一緒に読み合わせていきながら、少人数で話す「読書会」を開催している。参加して話してみたら、同じような状態だったと初めて共感できたり、気づけた人が多くいるという。ただし、カサンドラ状態が波のように繰り返し起きることがあり、どのような影響を受けているかも人それぞれだ。人によっては、参加して自分には合わない場と思うこともあるという。「アスペルガー・アラウンドではご自分に合わないと思った場合は、いつでも退出できますとお伝えしています」。
ステージ2では、障がい理解・解決法を模索するために、勉強会や臨床美術を用いた場を開いている。パートナーの特性を知り、自分が楽になることを優先して良いと理解し、また、自分を大事にし、余裕を持つことを目的としている。心のゆとりができた人向けに、ステージ3として、カサンドラ脱出プログラムが用意されている。これは、具体的にカサンドラからの脱出方法を知識面やメンタル面でトレーニングする連続講座となっている。また、団体のオフィスもあり、相談をすることもできる。
参加者の90%は女性で、40代~65歳くらいの人が多い。多くの人がパートナーに発達障がいの診断が出ていない状態で参加するという。なかにはパートナーが高学歴の人もおり、お子さんにも発達障がいがあるという診断を受けている人が2~3割ほどいる。
また、参加者のなかにはパートナーに対する悩みを抱えている人だけではなく、親子関係や部下に対する悩みを持っている人もいるそうだ。すでに亡くなっている親のことを知ることができてスッキリした人もいたという。
カサンドラは関係性が生む状態
「私が活動しようと考えた当初、身の回りでは3人しかカサンドラ状態にある人を知りませんでした」。SORAさんが独自に調べたところ、2013年頃はカサンドラのことを書いたブログは10個もなかったという。活動を進めていくなかで、テレビなどのメディアで紹介されたこともあり、オープンな言葉になっていったという。
参加者の人からは、カサンドラ状態にある人が相談できる場所が少ないという声が多く聞かれる。本当は相談場所が増えればいいが、発達障がいの専門医もあまり多くはないというのが現状だ。そこで、カサンドラ症候群マニュアルを作ることに。「それを見て、まずは自分の状態を理解して、仲間とつながるセルフヘルプグループが増えれば良いと思っています」。
「カサンドラは関係性が生む状態であると考えています。1人で抱え込まずに、『しゃべりば』などに参加することで軋轢だと感じていことが違うものに見えることがあります」。
* 自閉症スペクトラム障がいのこと。ASDを持つ人は、コミュニケーション能力や想像力に障がいがあり、他人と関係をつくることが困難である場合が多いといわれている。
アスペルガー・アラウンド
http://asperger-around.blog.jp/
発達障がいや、その傾向にある人と関わることで、心身に影響を及ぼす「カサンドラ」状態にある人のサポートをする。
メンバー 当事者
活動内容 しゃべりば/読書会/ASD勉強会/ワークショップ/個別相談、他
活動エリア 多摩市、他
相談 あり
集まれる場所 あり
他団体との連携 あり
連絡先 ブログの問い合わせフォームから
*『ネットワーク』346号より(2017年2月発行)