市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

NPO法人 アトピーを良くしたい

「NPO法人アトピーを良くしたい」は、サロン活動やカウンセリング等を通じて、アトピー性皮膚炎(以下、アトピー)を患い、悩み苦しんでいる当事者とその家族を支援しています。

ご自身もアトピーの当事者で、代表理事である横井謙太郎さんにお話をうかがいました。


はじまりの物語 ~治療法に翻弄された子ども時代~

「私の場合は、生後すぐにアトピーだと診断されました。小学生の時に、親の判断でそれまで使ってきた治療薬のステロイド剤をやめました。いわゆる『脱ステロイド』です。でもその結果、痒みが悪化してかきむしり、皮膚はボロボロになりました。関節部分の皮膚の痛みで足をのばして歩くのもつらい状態になりました。当時は海水浴がアトピーにきくといわれていて、無理やり海水に入ったこともあります。電気ショックのようなすさまじい痛みで、本当に死ぬかと思いました」と横井さんは子どもの頃のつらい記憶を明るく語る。

中学校、高校と、脱ステロイドを続けたが、横井さんの症状は一向に良くならなかった。アトピーによる極度の痒みから、肌を掻かずにはいられない。掻いた瞬間は痒みが薄れても、肌は一層ダメージを受け、更なる痒みと痛みに襲われる悪循環。断続的な痒みにより安眠もできない毎日。その結果、象の肌のように皮膚が硬く皺がよる「苔癬化(たいせんか)」といわれる状態にまで悪化したという。

その後横井さんは自分の意思でステロイド治療を再開したが、大幅に改善することはなかった。大学を卒業し、不動産業の営業職として働いたが、常に上半身の皮膚がボロボロとはがれていくような状態で、いつも周囲の目を気にしていたという。


遂に熟睡できる日が! ~改善に不可欠な周囲の支援~

横井さんは25歳の頃「今後仕事を続けていけるのか?結婚できるだろうか?」という不安から、「このままではダメだ。なんとしてもアトピーを良くしよう」と決意する。

それから2年程の間はサプリメントや漢方薬等はじめ、ありとあらゆる治療法を試していった。汗をかくことが改善につながると思い、ジムにも通ったが、どうしても周囲の目が気になり断念。そして自宅での半身浴をはじめた。1日1~2時間、38度程度のお湯につかりながら、水を2リットルも飲む毎日。仕事を続けながらこの時間を確保するのも大変だったが、最初はほとんど汗をかかなかった肌が、徐々に汗をかくようになっていったという。

「半身浴を始めて約1年半がたったある日の朝、生まれて初めて、『ぐっすり眠れた。熟睡できた』と実感しました」。この日を境に、横井さんの症状は改善していった。


「私も同じ」という声に励まされ

「改善したのには周囲からの支援が大きかった。ブログで毎日の状態をつづったところ、似た経験をもつ人たちからコメントをもらい、励まされるようになりました。『私も同じです』と励まされたり、逆に自分が相手を励ましたり。結婚してからは妻にも助けられました。そういう周りからのサポートもあって、自分の中から頑張ろうという思いが湧いたんです」と横井さんは振り返る。

その後、知人や仲間と2012年に「NPO法人アトピーを良くしたい」(以下、アト良く)を立ち上げる。「アト良くでは特定の治療法や手法を勧めることはしません。アトピーの良くなり方は百人百様ですから。アトピーが良くなることがゴールなので、例えばステロイドを使っても使わなくてもどっちでもいいんです。その人にあった治療法や取り組みを一緒に見つけていくスタンスですね」。


モチベーションを上げることが改善につながる

アト良くでは月に一回程度「アトピーサロン」という集まりを開いている。1回につき10人~15人ぐらいの20代~40代の当事者やその家族が参加する。これまでに60回ほど開催してきた。サロンの前半は参加者の自己紹介。「まずは自分がアトピーについてどう思っているのかを語ってもらいます。そこでは他の参加者の発言を否定しないことがルールです。中にはこれまでのつらさから泣き出す人もいます。みんなで話して、『それわかるよ』と言ってもらえることが、どんなに癒しになるか。参加者は一人一人感じ方は違っても、似た経験があるので、共感しやすいんですね。参加者アンケートで『ここに来ると元気になります』とか『自分だけじゃないと分かった。自分も頑張りたい』と言った声が多く寄せられます」と横井さんは参加者の反応を紹介する。

「他の人の話を聴いて『アトピーを良くしたい。自分も取り組んでみよう』と参加者が自己の内面からモチベーションをあげられるようになることが重要です。ここが、良くなる人に共通している点です。そのため、サロンの後半では『良くするにはどうしたらいいと思うか』をテーマにワークショップをやります。治療法や心がまえについてみんなで話して考えることが、参加者一人一人のモチベーションをさらに上げることにつながります」と横井さんはサロンの意義を語る。

また、アト良くでは資格を持ったカウンセラーによる、カウンセリングも実施している。主にカウンセリングの利用者はサロンに参加しにくい人だが、カウンセリングの回を重ねていくうちに、複数の参加者の間で話をするサロンにも参加してみようと気持ちが変わっていく人もいるとのことだ。

「アトピーの有症率は、人口の約5.5%と言われていますが、社会的には『痒いだけじゃないの?』と軽視されがちな風潮もあります。でも実際はアトピーであることの様々なつらさから、仕事を続けられなかったり、内向的になったり、いじめにあったり、場合によっては鬱になり自殺してしまう人すらいます。深刻な問題につながることも少なくないアトピーの実態を知ってほしい。当事者が自分で治ろうとする気持ちとその努力を周囲の人が受け止め、支えてくれる世の中にしたいと思っています」


NPO法人 アトピーを良くしたい

http://atopyrecording.org

「たくさんの『元気』と『安心』でみんなをHAPPYに!」をテーマに、アトピー改善を目的としたさまざまなプロジェクトを展開している。


キーワードアトピー性皮膚炎

メンバー 当事者およびその家族、ボランティア

活動内容 アトピーサロン(当事者参加のミーティング・ワークショップ)

アトピーカウンセリングプロジェクト(個別カウンセリング)

講演会、シンポジウム など

活動エリア 東京、名古屋、神戸など

相談 あり

集まれる場所 あり

他団体との連携 あり

連絡先 ホームページの問い合わせフォームから

*『ネットワーク』350号より(2017年10月発行)