市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

NPO法人 若年認知症交流会小さな旅人たちの会(ちいたび会)

若年認知症交流会小さな旅人たちの会(以下「ちいたび会」)は、中野区、杉並区を中心に、認知症になっても普通に生活できる地域づくりをめざして、地域密着の交流会活動やカフェを行なっています。会の活動について理事長の高橋恵美子さんと副理事長の高橋昭彦さんにお話をうかがいました。


はじまりの物語 ~50代で夫が発症~

理事長の高橋さんが若年性認知症と関わる事になったのは、20年近く前の夫の発症だった。「夫は50代で若年性アルツハイマーになりました。知人を訪ねに出かけたのにいなかったと帰ってきたり、今話したことをまた話すなど、何か変だなとは感じましたが、ためらいもありすぐに病院を受診することはできませんでした。ちょうど物忘れ外来ができたような時代です。ある日、夫はついに外出したまま帰って来られなくなりました。それをきっかけに保健所を通じて病院の精神科を受診し、即座に、若年性アルツハイマーであると診断されました。当時の主治医からは「社会資源を利用しながら、家族が一人で抱え込まないようにした方がいい」とのアドバイスを受けられたのは良かったと思います」と当時を振り返る。

その後高橋さんは保健所で関東広域を対象とした若年性認知症当事者家族会の彩(ほ)星(し)の会の存在を知り、参加。初めて同じ境遇の人達と出会うことができ、救われたという。その後彩星の会の役員としても活動。当時は若年性認知症の当事者・家族会も、関東と関西に一つずつしかないような状況であった。そうした経験を通じて、「このような当事者・家族会の活動がもっと身近な地域にあったらいいのに」という思いから、ちいたび会を立ち上げることになった。


当事者と家族以外の協力も得て

副理事長であり事務局長の高橋さんは行政の職員。認知症対策の審議会の担当をしていた時、若年性認知症当事者の夫を持つ委員が、若年性発症の大変さを切々と訴えていたことがきっかけで、若年性認知症患者・家族の支援に関わるようになったという。

「NPO法人にした方が、地域の人に信頼されやすいのではないかと考え、2013年に法人を設立しました。会の立ち上げ時から、当事者とその家族だけでなく、区民、学生、地域関係者といった支援者、サポーターに関わってもらったのは、会の特徴であり強みだと考えています。活動に当事者以外の参加を得ることで、程よくバランスがとれ、新たな発想が生まれます。現在は大学のゼミのフィールドワークの学生さんに関わってもらったり、看護師の学生の実習にも来てもらっています。こうした外部からの参加により活気が生まれるのです」と、当事者性のあるメンバーに限定して運営されることが多い家族会とは少し異なるちいたび会の特徴を説明する。

現在ちいたび会は、中野区、杉並区を中心とした地域で当事者・家族の交流会やオープンカフェ、相談支援などを行なっている。交流会は福祉施設を借りて毎月1回行っている。会の前半はみんなでイベントを楽しんだり、勉強会をしたりする。後半は当事者・家族が分かれて活動。家族は意見交換を行い、先輩家族から症状や生活がどのような経過をたどるのかなどのアドバイスを貰ったり、現在の経過を話しあう。家族の情報交換と地域で普通に暮らせることの両方が主眼だ。関心のある人は誰でも参加でき、地域との接点作りに努めている。

新たな当事者及び家族、関心を持っている地域の人への垣根を低くしたいという想いから、毎月2回、認知症カフェも開設し2年目を迎えた。理事長の高橋さんは「カフェは地域の人も入ってきてくれるオープンな場所としてやっています。交流会の事を耳にしても、参加するにはまだ敷居が高く、夫婦で抱えこんでいるような当事者家族がいると思います。そんな人たちが気軽に来られ、気兼ねせず居られる場、そんな雰囲気をつくろうと考えて始めました。

症状が進めば必然的に出かけられる場所はどんどんなくなってしまうものです。でも若年性認知症に理解のある人がいる場所、相談できる場が必ず必要になります。以前に比べれば、最近は身近な地域での社会資源も少しずつ増えてはきました。どんなところを利用するかは相性もあるので選択次第ですが、その選択肢の一つになれればと考えています。最初の一歩を踏み出すのがすごく大変なんです。まずは来てほしい。ちいたび会でその一歩を踏み出してもらえたら」とカフェに込めた想いを語る。


みんなで行く旅行は楽しい

活動の一つとしてみんなで年に数回、日帰りや宿泊の旅行にいくことも大事にしているという。「旅行は日常生活と離れて当事者も楽しめるし、その家族にとっても貴重なリフレッシュの時間になります。当事者家族、夫婦だけでは徘徊の心配、失禁等トイレや入浴問題など、自分たちだけでどこか旅行することは難しい。でもみんなで行けば、そこをサポートできます。安心して温泉にも入れるし、宴会でみんなでわいわい騒いで発散できるわけです」と副理事長の高橋さんは旅行の効能を説明する。


切実な当事者家族の声

「フッと病気じゃないんじゃないかと思えるぐらいに昔の妻に戻る瞬間もありますが、できないこともますます増えてきました」

「私は聖人君子でも仏様でもないので、辛くなったり、イライラしてキレてしまったりすることもあります。いつも寛大に温和にばかりはできません。でもそんな介護者は私だけではないと思います」

「家族会やカフェなどで家族の方とお話しすると皆さんいっぱいいっぱいでやってらっしゃるのがひしひしと伝わってきます」

「ある家族の方は介護の話でこんなに笑い合えるなんて思ってもみなかったとおっしゃっていました」

「時にはカフェや家族交流会で日々の悲しみを笑い飛ばしながら、時には一緒に涙しながらもう少しだけ二人頑張っていけるかなと思っています」

「会に参加されている方々は、病気のタイプや家族の事情なども様々ですが、若年認知症に共通の悩みを分かち合うことができる場として、私たちにとって数少ない、なごみの場であり、大きな支えとなっています」

会に参加する当事者家族からは、日々若年性認知症の本人と向き合うこうした切実な声が寄せられる。


家族と本人の笑顔のために

理事長の高橋さんは「若年性認知症の人は症状が重く進むまでの間は適切なサポートがあれば普通に社会生活が可能です。だからこそ、外出支援、働くことへの結び付けなど、本人が主体的に人生を送れるよう、本人の社会参加をお手伝いする活動の幅を広げ、力を注いでいきたい。そんな思いも強くしています。なるべく多くの家族が一人で抱え込まないで生活できるようにするために、そして本人の笑顔のために活動を続けていきたいと思っています」とこれからの活動への想いを語った。


NPO法人 若年認知症交流会小さな旅人たちの会(ちいたび会)

http://chiitabi.jp/

https://www.facebook.com/chiitabi

厚生労働省により約3万8000人と推定される65歳以下で認知症を発症した若年性認知症の当事者、家族が、身近な地域で顔の見えるつながりづくりや支え合い、相談・情報提供などを通じて認知症になっても普通に生活できる地域づくりをめざしている。会の活動には、当事者、家族の他、地域関係者をはじめ様々な支援者が関わっている。


キーワード若年性認知症

メンバー 若年性認知症患者やその家族、地域の支援者等

活動内容 本人・家族交流会、若年認知症カフェ「ちーたーひろば」、手作業サロン、若年性認知症ホットライン(電話相談)、旅行支援など。

活動エリア 主に、東京都中野区、杉並区

相談 あり

集まれる場 あり

連絡先 honbu@chiitabi.jp



*『ネットワーク』358号より(2019年2月発行)