市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

JRPS(日本網膜色素変性症協会)ユース部会

網膜の異常により、物が見えにくくなったり、視野が狭くなったり、視力が低下して、中途失明に至る場合もある難病の網膜色素変性症の当事者団体、JRPSのユース(若手当事者)部会代表の西川隆之さんにお話をうかがいました。


はじまりの物語 ~若年層特有のニーズのために~

JRPSユース(以下、ユース)は、JRPS会員の中で特に16歳~35歳までの若年層の当事者を対象とした部会です。メンバーには程度の差はありますが、視野狭窄(見える範囲が狭い)や夜盲(暗いところでものが見えない)、視力の低下、中心暗点(周辺は見えるが真ん中が見えない)等様々な視覚の症状があります。JRPS自体の活動は20年以上の歴史があります。

ユースが立ち上がったのは、今から十数年前ですが、若年者の「自分たちが今必要としている情報が得られない」という問題意識がきっかけでした。「就学から就職準備、実際の就労、転職、結婚、育児という若年層特有のライフステージの中で、みんなどうしているのか?」という切実な声がありました。当時、ヨーロッパのいくつかの国では、既に研究者の国際会議に付随して16歳~30歳ぐらいのユースによるプログラムが行われていたので、日本からも参加して先行事例をヒアリングし、ユース活動がスタートしました。

現在は、主な活動として、ホームページやメーリングリスト、LINE等による情報交換や、リアルな場として、宿泊合宿、勉強会、研修会、懇親会の実施などを通じて、同じ立場での若年の当事者同士の交流や支え合い、広報、啓発等を行っています。メンバーは20代~30代の就労している層が中心となっています。


希少難病の大変さ

私自身は7歳で発症し、症状は徐々に進行していきました。学生時代はスキーやテニス、サッカーなど、スポーツを好んでやっていましたが、症状の進行とともに、友人ができていることができなくなったり、見学を余儀なくされたりと、くやしい思いもしました。ブラインドスキーは今でもやっています。

高校1年生の時に身体障害2級の手帳を取得しましたが、5~6年の間は葛藤があり、なかなか自分の障がいを受け入れることができませんでした。自分も周りの人と一緒に、当たり前の生活を続けたかったのです。

8年ほど前から白杖を持つようになりました。今は明かりやライトなど光源そのものを感じることはできますが、それ以外は真っ黒に見えます。

網膜色素変性症は8000人に1人が発症するといわれています。身体障害者手帳を持っている視覚障がい者は約30万人いますが、そのうち働く世代はわずか9万人です。当事者にとって、大体の場合、家族、学校、職場に同じ障がいを持っている人が見当たらないのです。この障がいに接した経験のある人もなかなかいません。この障がいを抱えてどうやって生きていけばいいのか、相談できる人が周りに誰もいない環境なわけです。

その人の見え方や、症状が進行する具合、世代によって困ることは様々です。10代であれば、学校生活での移動面や、運動、部活などです。周りが当たり前にできることができなくなっていくので劣等感を持つことも珍しくありません。障がいを持ったことで、勉強するにせよ、その後働くにせよ、自分自身が「成長しようとする気持ち」がわきづらくなってしまうこともあります。それと同時に、物理的にも、学び、働く機会を喪失しがちだと言えます。

就労後、「パソコン画面が見えなくなった」「設計図が見えなくなった」など、病気の進行によって転職や社内異動が必要になる人もいます。中には退職せざるを得なくなってしまう人もおり、仕事の環境にロールモデルとなる人がないと、会社も本人も困ってしまうことになります。


孤独からの脱却

この病気は進行性のため、将来がとにかく不安になります。「今までできたことが、徐々にできなくなってしまう」「これからどうやって生きていけばいいのか」そんな孤独に直面するのです。ひとりで悩んでも答えは中々見つかりません。

確かに、症状の進行によって、実際できないことは増えていくのですが、工夫すればできることがあるのを知るだけでも、かなり違います。自分以外に障がいのある人が周りに全くいなくて「ひとりぼっち」という精神的につらい状況から、まずは同じ境遇の人に出会える。そして、その人たちがいろいろな工夫をしながら生活し、社会で活躍しながら、笑っている姿を見ることができる。その元気な姿を見て自分も元気になれる。そうした「孤独から脱却できる」ことこそがユースの一番の存在意義だと思っています。「しんどい」と言っていた人が元気になる姿を見ると、私自身も活動していてよかったと心から思います。


万能薬ではないけれど

一般的には眼科からJRPSにつながる人が一番多いのですが、私の場合は、偶然就職先にJRPSユースに入会している先輩社員がいたことがきっかけでした。最初は、情報がほしいという理由から参加しました。視覚に障がいを持ちながら働いていく上でのノウハウや工夫、どのように障がいと向き合うかといったマインド面を知りたかったのです。

とはいえ、正直、初めて参加した時は、心理的なハードルが非常に高かったです。行く前は、患者会、障がい者団体のイメージが重く膨らんでいたからです。私にも偏見があったのかもしれません。ところが実際参加してみると、懇親会も盛り上がってとても楽しく、大学のサークル活動のような気軽さを感じました。

一方、症状が軽度の人は、他の人の姿から「自分の将来を見ているようでつらい」という感覚を持つ場合もあり、参加に至らないこともあります。

私はユースの活動は万人ではなくとも、効く人にはとても効く薬のようなものだと思っています。会の活動を通してつながりを感じる人、感じない人に分かれるのですが、しんどかった時に会の活動に救われたと感じている人は、グループに貢献しようとする傾向があり、私もその一人です。

当面の課題は、社会的にもっと網膜色素変性症と、その当事者活動の存在について認知を上げていくことです。もう一つは企画運営に関わる人をどう増やしていくかです。会の活動は、実行委員会制をとっています。宿泊合宿は6人~8人の実行委員で半年ほどかけて実施しています。たくさんのメンバーに関わってほしい一方で、やはり自分の仕事や家庭を一番に考えてもらいたいこともあり、無理やり実行委員を頼むわけにもいかず、そういった点で人材確保に苦労しています。いかにメンバーの「会の活動を担っていこう」という自発的な気持ちを醸成していけるか。やりがいでもあり、課題でもあります。


私たちに声をかけてください

みなさんにぜひお願いしたいのは、視覚障がい者に声をかけていただきたいということです。視覚障がい者が電車のホームから転落して痛ましい事故が起きると、当事者は「明日は我が身か」と思うものです。危ないと思った時は、ためらわずにぜひ声をかけてもらえると助かります。なかには不要な人もいますが、視覚障がい者は自分からは声をかけられませんので。日常的にご配慮いただいているみなさん、いつも本当にありがとうございます。


JRPSユース部会

http://jrps-youth.sakura.ne.jp/index.html

JRPSは、網膜色素変性症に関わる患者・医師・支援者により構成。会員は全国に約4000名。ユースは、病気によるしんどさや生きづらさを感じる全国の16歳~35歳の網膜色素変性症の患者とその類縁疾患の患者に対して、同年代同病者のネットワークをつなぎ、部会の活動(企画の参加・実行、部会の運営)を通して将来への不安を軽減し、前向きになるきっかけを作ることを目的に活動している。全国で約100名の会員がいる。


キーワード網膜色素変性症/RP/難病/視覚障がい

メンバー JRPS会員の中で特に16歳~35歳までの当事者

活動内容 LINEによるオンライン交流会、メーリングリストやホームページ等を活用してQOL向上関連の情報共有、夏合宿、冬合宿、スキー合宿など1泊2日の合宿形式の交流会、地域ごとの交流会や勉強会、視覚障がい関連イベントへの参加を通して親睦を深めるなどの活動を行っている。

活動エリア 全国

相談 あり

集まれる場所 あり

連絡先 info@rpy.mimoza.jp


*『ネットワーク』363号より(2019年12月発行)