市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

若年性パーキンソン病患者の為の「きぼうの会」

国の難病に指定されているパーキンソン病は普通50~60歳代に発病することの多い病気です、日本には約20万人の患者さんがいるといわれていますが、そのうちの約10%は若年で発症し、若年発症ならではの多くの問題を抱えています。そうした若年発症患者特有の問題を解決するために「きぼうの会」が2016年に誕生しました。若年パーキンソン病患者の問題を解決するために、患者同士のつながりの場づくりや情報提供などを行っているこの会のメンバーの方にお話をうかがいました。


はじまりの物語

~“人生これから”という時に発症~

パーキンソン病は、脳内の神経細胞が壊れることにより、ドパミンが不足し、振戦(しんせん)と呼ばれる手足の振るえが現れ、動作が遅くなり、筋肉が硬くなって動かしにくくなり、さらには身体のバランスがとりづらくなり、歩行障害や転びやすくなるなどの運動症状が現れる原因不明の難病です。症状の出方は患者によって実に様々です。ある程度症状を抑える薬はありますが、病気の進行を確実に抑えることはできず、根治療法は今のところありません。進行の程度やスピードは患者によって異なります。主に50代以降に発症する人が多く、60代以上の方がほとんどですが、中には私たちのように40代以下で発症する人もおり、若年性パーキンソン病と呼ばれています。若年発症の患者は全体の約一割程度であり、高齢で発症した人の場合と異なり、数が少ないので患者同士が知り合うことも少なく、比較的難病に関する情報の多い東京でも、まだまだ孤立している若年の患者がかなりいるのではないかと思います。

同じパーキンソン病の患者であっても、高齢で発症した人と、若年で発症した人ではその問題の在り方に大きな違いがあります。“働き盛り”、“子育ての真っ最中”など、いわゆる“人生これから”という時に発症した患者は、周りに相談する人もおらず、公的な支援の存在も分かりません。そうしたことは病院では教えてくれないのです。

障害者手帳、障害年金、介護保険、指定難病医療費助成等、公的支援はありますが、担当窓口がそれぞれ違ったり、申請方法が複雑だったりします。

一か所で公的支援の仕組みを教えてくれる機関の設立が望まれます。

病状の程度や状況にもよりますが、服薬である程度症状のコントロールができているときは、周囲からはパーキンソン病患者であることに気づかれない場合もあります。ですが、5年後の自分がどうなっているのか、進行していく度合いは自分にも分からず、相手にも説明できません。職場やご近所、子どもの友達の親などに、本当の話が容易にはできない苦しさがあります。仕事や家庭生活、病状の進行など、これからの見通しが非常に不透明な中で、患者がひとり苦しみ、悩み、孤立を深めてしまう場合も少なくありません。


若年患者が抱える問題の3つの側面

若年患者が直面する問題は「精神的問題」、「経済的問題」、「身体的問題」の3つの側面から捉えられます。

1つめの精神的問題は、発症年齢が低いほど闘病生活は長く、かつ進行性ゆえに将来に対する不安が大きいことです。また結婚・出産・子育てなど女性にとってのライフステージでの悩みや、家族や周囲に理解されない孤独や苛立ちなどがあります。

2つめの経済的な問題は、就職の困難です。就業している人であれば、進行により減俸を余儀なくされたり、解雇の不安から極力病気を隠して働かざるを得ない状況も生まれます。加えて教育資金や住宅ローン等の支払いの困難や、経済的な困窮および介護の負担から、家族関係の崩壊や生活破たんなどが起こり得ます。

3つめの身体的な問題は、進行度合いは様々ですが、徐々に身体が思うように動かなくなり、行動が制限されるようになります。仕事の勤務形態の見直しや転職の必要性が生じます。家事全般・身辺のことにも介助が必要となります。他には嗅覚障害、自律神経障害、うつ症状、睡眠障害など外からは見えにくい症状に対する周囲の誤解や認知度の低さにより生ずる問題もあります。

仕事や子育てなど、「これから」という人生の真っただ中で、やらなければいけないことは山積みです。そんな中で「先の見えない自分の体といかに折り合いをつけていけるのか」という

状況に置かれているのです。精神的に追い込まれていくのも無理はありません。

こうした状況で諦めてしまう人も沢山いると思います。インターネットだけで情報を得ている人も多いでしょう。しかしインターネットだけで情報を得るのと、同じ境遇の人と実際に会って話ができるのでは全く違います。「きぼうの会」が行うセミナーや交流会などで「初めて同じ若年性患者の人と話ができました」という参加者の声も珍しくありません。

「人に言えない人同士が集まれる、つながりを持てる場」、それがこの会の一番の特徴です。


患者同士の分かち合いが患者の生活の質を上げる

パーキンソン病患者は日々の生活にも様々な工夫をしています。歩行障害が生じる場合に靴はどんなものが良いか。筋肉が固くなるのに対して、それを和らげるためどんなストレッチが効果的か。通勤や外出時の移動の際に、薬効が切れたときのことを考え、電車に乗る時間や車両の位置はどこがいいか。振戦が現れやすい人の場合、黒色の服が目立たないことや逆に縞柄や、ペラペラな生地の服は振るえが目立つので避けた方がいい等々、患者ならではの経験から伝えられることが沢山あります。こうしたことがわかれば患者のQOLは劇的に上がるのです。

また「スーパーのレジで並ぶ時、うまく小銭を出せないかもしれないと焦り、いつもお札で支払ってしまうため、財布が小銭でいっぱいになってしまう」「薬効が切れて突然体が固まり、足の裏が強力な接着剤で貼りついてしまったようになり、1歩も動けなくなった時、家族に助けを求めて電話しても、その状況を理解してもらえず、見当はずれの答えが返ってきた」こうした光景も、患者同士であればその大変さがよく分かるのです。

今後のセミナーでも予定していますが、若年で発症し、何十年もこの病気とつき合ってきたいわば先輩の患者から、より若い患者に、若いうちから準備しておいた方がいいことや、やっておいた方がいいことなどを伝えていく取り組みが重要だと考えています。先行き不透明な状態がつきまとうなか、戦っている先人の具体的な話を聞けることが若い患者の力になるのだと思います。

会の活動としては、セミナーの会場確保や費用の捻出、広報のチラシ作りや会場設営など、今後は患者以外の人の助けも借りなければならないような課題がいくつもありますが、こうした若年患者を支える活動が、地域の枠を超えてつながり、ネットワークを作っていく必要もあるだろうと感じています。


支え合うから頑張れる

パーキンソン病は現段階では完治する治療法が見つかっていません。半年、1年と短い時間の流れの中でも、去年できていたことができなくなるかもしれない不安がつきまといます。だからこそいつか、どんなに体が動かなくなっても、自分のいられる場所がほしい。誰かから頼りにされる存在でありたい。人のお世話になっても人の役に立ちたいと心底願います。この病気になったことで、それまでの生活では接点が生まれなかったような、世代や暮らし方、生活圏域の異なる患者同士の仲間ができました。自分より若い人の相談に乗ることもあります。そうした時、自分たち先輩が楽しくやっていく姿を見せたいと思います。手本にはならなくとも、見本にはなりたいなと。

自分のためだけでは頑張り続けられないかもしれない。でも仲間のためなら、人のためなら頑張れる。そんな気持ちで活動しています。


若年性パーキンソン病患者の為の「きぼうの会」

https://ameblo.jp/kiboupd/

https://kiboupd.wixsite.com/kibou

パーキンソン病の全患者数は国内では約20万人。平均発症年齢は70代と言われる中、約10%が40歳までに発症した若年性患者。そうした若年性パーキンソン病患者の持つ深刻な問題の改善、解決を目指し、その希少性を共有しながら、セミナーや交流会を通じて情報を得られるような「つながりの場」となることを目的としている。


キーワード若年性パーキンソン病

メンバー 若年性パーキンソン病患者とその家族、支援者

活動内容 セミナー・交流会の開催

活動エリア 東京都内・神奈川県内

相談 あり

集まれる場所 あり

連絡先 kibou_pd@yahoo.co.jp

*『ネットワーク』355号より(2018年8月発行)