市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

NPO法人 視覚障がい者ネットワーク コトリナ

NPO法人視覚障がい者ネットワーク コトリナ(以下、コトリナ)は、情報発信やサロン活動などを通じて、視覚障がい者やロービジョンの問題に直面している人の支援を行っています。

ロービジョンの当事者で理事長の内山昌和さんと視能訓練士*1の塩田直子さんにお話をうかがいました。


はじまりの物語 ~その人らしく生きていくための情報を~

視能訓練士として働いていた塩田さんは、2000年ごろから、勤務する都立病院で、先天性の視覚障がいや疾病等により、視力が低下して生活に様々な支障が出てくる「ロービジョン」状態の患者さんに、便利な道具の紹介や身体障害者手帳によるサービスの説明、拡大鏡やまぶしさよけの眼鏡の処方等を行うロービジョンケア*2に関わるようになった。

ロービジョンケアを始めた背景について塩田さんは「視覚障がいやロービジョンの問題を抱える人は、手帳を持っている他の身体障がいの人の数と比べると、その割合は、多くはありません。でも、視覚を失った人の約半数が『一度は死を考えたことがある』と答えるほど、つらくて、きつくて、重い障がいなんです。人間の情報収集は『目からが8割』と言われています。実際、目から必要な情報を得られない人は、身体障害者手帳を持つ視覚障がい者の倍ぐらいはいると思います。視覚障がい者は先天性の人より、むしろ進行性の人が多いのです。先天性の視覚障がいにより、子どものころから生活訓練を受けてきた人と違って、中途で見えなくなったり、見えづらい状態になっていった大人は、いざ介護や介助が必要になっても、その時にはもう自分でSOSを出したり、適切な情報収集や発信ができません。このような障害者手帳の交付を受ける手前の状態の人へのケアが必要なんです。今の社会は視覚障がいやロービジョンを抱える人が、その人らしく生きていけるように情報を届けることがなされていないと感じます。自治体によっては視覚障がい者支援センターもありますが、十分に利用されているとは言えません。そうしたセンターの情報自体が当事者に届いていないからです」と説明する。

その後、アンケートなどの結果、当事者同士が語り合える場が必要ではないかと考えた塩田さんは、2010年4月に勤務先の病院で、月に1度ロービジョンサロンの活動を始めた。その結果、それまで引きこもっていた人が、サロンに来たことをきっかけに点字図書館などから様々な資料やパンフレットを集めて持ってきてくれるようになるなど、参加者が多くの情報をサロンに持ち寄るようになっていったという。

こうした時期に、理事長である内山さんは緑内障により、視力が落ち、自宅から離れた病院に通院するのが難しくなってきていた。「通院しても、ただ診察、検査の繰り返し。これから生きていく上で必要な社会資源の紹介もされなかった」という。そんな中、自宅から通いやすい病院に転院した内山さんは塩田さんと出会った。

塩田さんから拡大読書器等の情報提供を受けた内山さんだったが、こうした道具は、身体障害者手帳を持っていないと、かなりの値段になる。「自分は障害者なのか!?」と驚きつつも、手帳のメリットを理解しすぐに申請。その結果20万円近い値段が1割の自己負担で購入できたという。

多くの患者さんに接してきた塩田さんは、ロービジョンに直面し、「現状を維持したい」と治療に集中する一方で、その後の生活の想定ができず、仕事や家庭を失うケースを多々見てきた。「まだ少しでも視力のあるうちに音声パソコンの操作を身につけていたら、あの人は仕事を離職せずに済んだかもしれない」「年金を払い続けられていたら、家族を失わずに済んだかもしれない」と、視力がより悪化した後の人生を前向きに生きていけるための準備と支援の必要性を痛感していた。

内山さんも「自分と同じような立場や状況にいる人はたくさんいるのではないか。多くの患者さんにも紹介してみてはどうだろう」と思ったという。そして、眼科医、病院スタッフ、晴眼者、当事者が一緒になって、視覚障がい者に便利な道具を集めて紹介するロービジョンフェアを開催した。

医療機関を拠点とした活動には制約も多く、こうした機会を重ねながら、塩田さんは退職を機に、他に物件を借りて拠点をつくろうと決断した。


見えにくくなっても、できることが見つかる場所

塩田さん、内山さんたちは、国分寺市内に独自の拠点を確保し、2016年4月にコトリナを立ち上げた。めざしたのは、「身近ですぐに行け、情報を得られ、ちょっと元気になれるような場所」「見えにくくなってもできることが見つかる場所」だった。

コトリナでは、視能訓練士、眼科医、福祉関係者、近所の人などが、10代から80代の会員と一緒に活動することを大事にしている。サロンでの活動はおしゃべりや情報交換の他、リコーダーの演奏や英語サロン、音声パソコン教室、ブラインドヨガ、高尾山遠足の行事など。みんなでやれることをやってみるというスタンスから一つ一つの活動が生まれた。

そして2017年5月に初めてのロービジョンフェアを開催した。塩田さんは当日を振り返り「拡大読書機、杖、音声パソコンなど、当事者が使い勝手を紹介できるのが好評でした。このフェアで、コトリナの活動紹介や会員募集を行ったので、地域のボランティアや賛助会員が増えました」とフェアの成果を話す。


いざという時に手元に情報があるように

「日頃から当事者に情報を渡していくことが何よりも重要です。例えば、日々のサロンに来る人数は限られていても、その裏にコトリナのパンフレットをもっている人が10倍はいると思っています。いざとなった時、実際の情報が手元にあるのとないのとでは全く違います。いわば、サロンにはまだ来ていないけれど、その存在を知っていてくれる人を増やすような取り組みが大事だと思っています」。

そしてコトリナの今後の運営に関して「活動場所の家賃を払えるくらい寄付を集めていくことが一つの目標です。障害者総合支援法に基づく就労支援やガイドヘルプの事業所としての展開も検討していきたい」と抱負を語った。


*1 「視能訓練士法」に基づく国家資格をもった医療技術者。眼科医師の指示のもとでの視能検査や、斜視、弱視の訓練治療にもたずさわる。(日本視能訓練士協会ホームページ参考)

*2 様々な程度の視覚障害により、生活上何らかの支障がある人に対するあらゆる支援の総称。よりよく見る工夫(視覚補助具、照明等)、視覚以外の感覚の活用(音声機器、触読機器等)、情報入手手段の確保(ラジオ、パソコン等)、その他の生活改善(点字図書館、生活訓練施設等)、進路の決定(特別支援学校、職業訓練施設等)、福祉制度の利用(身体障害者手帳、障害年金等)、視覚障害者同士の情報交換(関連団体、患者交流会等)ができるよう情報提供し、助言や指導あるいは訓練等を行う。(日本ロービジョン学会ホームページ参考)


NPO法人 視覚障がい者ネットワーク コトリナ

http://kotorina.blog.jp

視覚障がいのある人を地域・医療・福祉・支援機関などにつなげ、情報の橋渡しをすることで、その人の新しい道が開けることをめざして、2016年4月に会として発足。見えない人も、見えにくい人も、見える人も、それぞれの力を出し合って一緒に活動することを大切にしている。


キーワード視覚障がい、ロービジョン

メンバー 視覚障がい当事者、医療・福祉関係者、地域住民

活動内容 サロン、個別相談、英語サロン、音声パソコン教室、リコーダーアンサンブル、ロービジョンフェアの開催等

活動エリア 東京

相談 あり

集まれる場所 あり

他団体との連携 あり

連絡先 kotorinanet@yahoo.co.jp

*『ネットワーク』353号より(2018年4月発行)