市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

NPO法人患者スピーカーバンク

「NPO法人患者スピーカーバンク」は、患者の立場から病気の経験を語る患者スピーカーを育成し、企業や医療機関、学校とをつなぐ団体です。現在、理事長を務めている、香川由美さんにお話をうかがいました(取材時点 2016年12月)。


はじまりの物語 ~一目ぼれ状態で飛びついた~

元々は、東京大学の公共政策大学院主催の講座の参加者が、患者の講師を育成し、大学や医療機関とマッチングすることで患者の声を医療に活かそうと始まった活動だという。そのグループが主催したシンポジウムに香川さんをはじめ、団体のメンバーが参加していた。

香川さん自身は1型糖尿病を患っており、それまでも患者会で発症間もなく不安な思いを抱えている方などに、体験談を話していたが、自己流で話していること、伝え方に苦慮していた。「自分の評価が気になるので、反応が悪いとへこむし、事実を大げさにいってしまって、後悔したり。うまくいかなくて落ち込んでいたこともありました」そんな中このシンポジウムに参加したことで、「こういった活動があることを初めて知り、一目ぼれ状態で飛びつきました」。


脳みその汗も冷や汗も一緒に

患者スピーカーバンクでは、病気を抱えながら、体験談を話したい方を2つの研修により患者スピーカーとして育成し、製薬メーカーなどの企業研修や医療関係の大学での講義、保健所が主催する市民向けのイベントなどとマッチングしている。また、市民向けの一般公開講座を自主開催している。

研修は1か月に1回のペースで約40回実施し、これまでに研修を修了した66人が患者スピーカーとして登録している(2016年現在)。スピーカーは20代~70代まで様々な年齢の人がおり、がん(4割程度)、難病や希少疾患を持つ人など、抱える病気もさまざまで、なかには、患者当事者だけでなく、患者の家族もいるという。

団体として、「病気の体験を話すうえでの心構え」や「病気になった経験が人生にもたらした意味」を参加者自身が考え、その経験を分かち合って、他の誰かや、未来の医療に貢献することを重点としている。そのために、研修では「事実と感情、病気の説明と自分の症状は切り離して話すこと」の大切さを伝えている。

また、「患者当事者である研修講師が二人三脚で話す中身を考え、安心して失敗できる環境で練り上げ、本番を迎えられるようにしています。脳みその汗も冷や汗も一緒にかきましょう、とやっています」。人前で話すことに不安を感じることのないよう、丁寧にサポートされている。「病気になった経験を悲しいことにするだけじゃなくて、人のために役立てたい、話す勇気を持てた、話してよかったという声をいただいたとき、自分自身も救われました」。

患者スピーカーの声を聞いた参加者からは「想像していた患者さん像とは全然違っていた」、「自社の製品が患者さんの暮らしを支えているんだということを自覚できて、仕事に対するモチベーションがあがった」(製薬メーカー社員)といった感想が寄せられているという。

患者スピーカーとして話すことによって、「病気になったことも人生に生かせていると思えることで、人生をより豊かに過ごせるようになり、周りの家族や友人も前に進んでいる姿を見ることで幸せになれると考えています」


“恩送り”

今後は、患者会とのコラボレーションを考えているという。「私たちだけでできることは、とても限られると思っています。疾患についての相談にのったり、解決策を提示するようなことはできません。でも、話す、わかちあうということをキーワードに患者会とご一緒することで、お互いの持ち味を出すことができたら、この活動をいかしてもらえるのかなと思っています」。

将来的には中学生や高校生などに対して話す場を設けたいとも考えているという。「病気という困難があっても乗り越えられること、家族や友達が病気になったときどうやって接したらいいかなど、学校の道徳教育などにつながるような貢献をしたいと思います」。

香川さんの活動のエネルギーの原点となった言葉があった。「お世話になっていた主治医の先生に、先生に恩返しがしたいけど、どう恩返ししたらいいかわかりませんといったときに、『私たちには恩返しはしなくていいから、これからもっと元気になって、あなたが会う人に笑顔を届けることで、“恩送り”をしてね』と言われたんです」

それは、自分たちには返さなくていいから、周りの人や次の人に恩を送ってほしいという意味だった。「その言葉が心にずっと残っています。「自分も病気をいかしたい」と思ってもらえたら、私が病気になったことや、病気になったけど元気に生きていられることの恩をその人に送れたのかなと思えます。1人でも多くの人にそういう気持ちになってもらえたら、報われますね」


* 患者スピーカーバンクでは、社員研修や大学の授業で講演する患者スピーカーの紹介もしている。依頼の流れは、同法人のウェブサイトから問い合わせることができる。


NPO法人患者スピーカーバンク

http://npoksb.org/

https://www.facebook.com/npoksb


病気や障がいを通して得た経験や気づきを伝える「患者スピーカー」の育成や、自主開催イベントの企画・運営などを行っている。

メンバー 当事者、家族、市民

活動内容 研修、自主開催イベントの企画・運営、学校への授業提供(助成金を活用して実施)

活動エリア 都内を中心に全国

相談 あり(患者スピーカーの育成に関する研修)

集まれる場所 あり(患者スピーカーの育成に関する研修)

他団体との連携 あり

連絡先 info@npoksb.org

*『ネットワーク』345号より(2016年12月発行)