市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

セルフヘルプという生き方

最近、東京ボランティアセンターにも、セルフヘルプグループに関する問い合せや相談が増えているという。「自分のニーズに合った会があるか?」「会を立ち上げ・継続するのには、どうしたらよいのか?」等々。これほど有益な社会資源があるだろうかと日々噛み締めている者として、関心が高まっていくことは、純粋にうれしい。

ミーティングに初めて参加した人が、受付では、うつむきがちで暗い表情だったのが、帰るころには、まるで別人のように明るく晴れ晴れとしているのを、何度目にしたことか。マイナスかけるマイナスが、プラスに転じる。エンパワーメントの効果を実感する、自助支援活動の醍醐味だ。それは、かつて孤絶と底知れぬ不安を抱えていた私たちが、通ってきた道でもある。

こんなことで悩んでいるのは、自分だけじゃなかった! 喉から手が出るほど欲しかった情報が、手に入った。今まで、溜め込んでいた思いを聴いてもらうことができた……。孤立から共生へ。セルフヘルプグループは、ネットワークの入り口だ。

もし、欲しい会がなければ、自ら始めるという選択肢もある。3人寄れば、1グループ! 私も2000年に子宮がんと診断されたとき、地元・東京に婦人科がんの患者会が見当たらず、患者なかまとともに「子宮・卵巣がんのサポートグループあいあい」や、治療後に頻発する後遺症のための「リンパ浮腫*1にとりくむ会りんりん」を立ち上げた。ちなみに、「あいあい」は和気藹々から、「りんりん」は勇気凛々とリンパ浮腫の「リン」から取っている。体験交流と情報交換のための“安全な場”「わかちあいのミーティング」と、電話やEメールによる相談、セルフケアの一助にコラージュ回想法や笑いヨガなどを行っている。

セルフヘルプグループの発祥には、諸説あるそうだが、キリスト教の精神「ひとを助(たす)くるは、自らを助く」に由来するらしい。自分の辛い体験がほかの人の役に立つ、“支援される” だけでなく、“支援者”になりうる存在だという気づきは、大きな勇気を与えてくれる。運営に携わる私自身も、患者なかまとの交流を通じて癒され、貴重な情報を手にしてきたことか。

「よくそんな、子宮や卵巣がないってことが他人様に知れ渡るのに、顔を出して活動できますね。旗振り役がいてくれるから、ほかの患者さんと出会えてありがたいと思うけれど、恥ずかしくて、絶対に私にはできない」と体験者の人から言われることもある。しかし、そんなことは気にしない。カムアウトしないとなし得ない出会いがあるし、デメリットより、メリットの方がずっと大きいのだから。

「あなたは、この世にこんな人がいるなんて想像もできなかったような、勇敢で思いやりのある人々と出会うチャンスを持つ」。米国の「がん治療を受ける10のメリット」と題するパンフレットに載っていた言葉が、頭をよぎる場面に度々遭遇する。

例えば、全身転移した30代の卵巣がん女性が、復職のことで悩む、子宮頸がん早期の女性へ、親身のアドバイスをしているのを目の当たりにしたとき。命のしずくの最後の一滴まで飲み干すように、生き切った仲間を看取ったとき。会の運営スタッフの面々を見回しても、よくもこんなすごい人たちと出会わせてくれた、キャンサー・ギフト、“がん福”だと、感謝の気持ちが湧く。

一方、この十数年の活動の中で、悔いが残ったこともいくつか思い起こされる。終末期の60代の卵巣がんの患者さんから、「セックスを経験しないまま、死にたくない」と相談を受けながら、傾聴につとめるばかりで、役立つアドバイスや情報を提供できなかったこと。午前4時に電話相談用の携帯電話が鳴り、ついつい取ってしまい、阿鼻叫喚の患者さんとその家族の訴えに通話を切るに切れず、白々と夜が明けた日のこと……。

反ナチズムのパルチザン活動に従事して、アウシュビッツに送られたフランス人ジャーナリストの知人が、「同じことが起きたら、また活動するか?」と問われ、「もちろん! ただし、次はもっとうまくね」と言っていた。次元がずいぶん違うけれど、私たちも、次はもっとうまくやろう。

活動を重ね、ネットワークが広がる中で、体験的知識も蓄積されてきた。臨床腫瘍医や看護師など医療スタッフの苦手分野と、セルフヘルプの限界にも目を開かされてきた。例えば、前者は、治療の後遺症や、退院後の生活について、あまりくわしくないことが多い。後者は、同じような体験を持つ人が、共感を持って傾聴することで癒しの効果があるといっても、重いうつ病など合併していたら、抱え込むのは非常に危険である。限界をわきまえ、連携していくことが必要だ。

当事者団体は、活動内容や文化など、それぞれ個性豊かで特色がある。当会は支部活動を行っていない。そこに集まった人や地域によって、ニーズやグループ・アイデンティティも異なるだろうという考えから。ただ、1つ例外がある。先に逝った仲間たちが創設し、私たちを待ち受けている「天国支部」。あの世で輪になって楽しく歓談しているかと思うと、なんだか、死ぬのも楽しみになってくる。

私自身、これまで、重い食物アレルギーを患い、その患者会の事務局をしたり、性自認*2に悩んでトランスジェンダー*3の自助支援活動に携わったりしてきた。当事者団体に新たにアクセスしてくる人たちには、かつて自身や家族、友人が何らかの会の参加体験者であることがけっこう多い。一度役立つことを知っていると、困難に直面したとき、すでにそこには道ができている。

今でも、「同病相哀れむで、傷の舐めあいをしている」などという偏見で、敬遠している人も中にはいるが、もったいない。セルフヘルプは、いかなる問題にも、応用が効く。応用範囲は無限大だ。

がんの領域では、2007年に「がん対策基本法」が施行され、がん診療連携拠点病院に相談支援センターの設置が義務づけられ、患者・家族の相談支援や情報提供が強化されつつある。患者会との連携や、ピアサポーターの育成・登用も進んでいる。

何かの困難に遭遇した人は、その助けになりそうな会に参加してみてはいかがだろうか。様々な分野の支援者の人たちは、当事者団体の情報の収集や紹介、活動支援や連携にさらに取り組んでいただければと願う。

生きる力を高める、セルフヘルプという豊かな生き方が広がっている。


まつばら けい(東京ボランティア・市民活動センター発行「ネットワーク」編集委員)



*1 がんの治療によって発症しやすい後遺症のひとつ。リンパの流れが悪くなり、手足などにむくみを生じるほか、さまざまな身体症状が出る。いちど発症すると“長いつきあい”になることが多い。

*2 自分が男性であるか、女性であるか、あるいはどちらとも言えないか、といった、生まれながらに持っている根源的な意識のこと。

*3 身体的な性別、社会的に割り当てられた性別を越えようとする人。「性同一性障害」が医学上の定義であるのに対し、こちらは当事者運動の中から生まれた言葉であり、用法はより肯定的かつ多様。