市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

NPO法人 楽の会リーラ

楽の会リーラは、不登校やひきこもりなどの生きづらさを抱え、社会的孤立に苦しんでいる青年期から壮年期の当事者およびその家族を支援しています。

ご自身も、ひきこもり当事者の親である事務局長の市川乙(おと)允(ちか)さんにお話を伺いました。


はじまりの物語 ~我が子が不登校に~

市川さんが不登校や引きこもりの問題と関わるようになったのは、自分の子どもが小学校3年のころからのいじめが原因で、中学校3年の時に不登校になったことがきっかけだった。「なぜ、うちの子が?」という気持ちでいっぱいになり、子どもの状態を受け止めきれず、無理やり学校に行かせようとしたこともあったという。そんな中、この問題に詳しいカウンセラーに相談し、子どもが強迫神経症を発症していたことがわかった。「ひきこもり状態にある人は、二次的に神経症やうつ等を発症したり、発達障がい、人格障がいなど、何らかの精神的な疾患や障がいを発症することが多い」と市川さんは指摘する。

転機は、ある親の会に参加したことだった。市川さんはそこで初めて、この問題に苦しんでいる家族は、自分たち以外にも沢山いることを知った。すると孤立感がなくなり、気持ちが楽になったという。現在の楽の会リーラにおいても、「相談に来る人は、自分たちのどうしようもない状況を聞いてもらい、安心したい。だから『つらいでしょう』『同じ経験をしてきたんですよ』『私たちは仲間なんですよ』とその気持ちに寄り添う言葉をかける。こちらが同じ経験者だと安心して話してくれる」という。


当事者が「自分で決める」ことへの支援

親としての経験を基に、市川さんは仕事の転勤先だった他県で親の会を立ち上げ、3年間活動。その後、東京に戻り、様々な出会いを経て2001年4月に、全国ネットワークであるKHJ全国ひきこもり家族会連合会*1の東東京支部として、楽の会リーラの立ち上げに関わった。

会の名称である「リーラ」はサンスクリット語で「揺らぎ」を意味し、ひきこもり当事者の「心の揺らぎや迷い」を表現している。「ひきこもりになる理由は様々だが、当事者の多くは学校や就職後のいじめなどがきっかけで人間不信になり、友人や家族、教師、職場の人との人間関係が作れなくなってしまう。『のんびりしたい』といった理由からひきこもり状態になっている人はほぼいない。『何かやりたい』『でも、できない』と悩み、苦しんでいる人がほとんど」と市川さんは説明する。

「当事者は自信がないため、物事を決められない。決められないから経験の積み重ねができず、その結果一層不安になるという悪循環に陥る。しかし、一人では無理でも、本人の状況を理解したうえで、人生経験のある家族が、本人が『自分で決める』手伝いをすることはできる」と市川さんは語る。


親中心の活動から当事者中心の活動へ

楽の会リーラでは、電話相談や居場所作りをはじめ、様々な家族支援のプログラムや取り組みを行っているが、特にこの2~3年で、親が活動の中心になるのではなく、主に当事者・経験者が中心となって活動できるよう、親はまわりから見守るようにしてきている。

楽の会リーラの事務所内に設けられたコミュニティカフェ「葵(あお)鳥(どり)」も、基本的には当事者・経験者によって運営されている。市川さんは「ひきこもりの当事者や家族の支援において、相談支援だけでは十分ではない。当事者が気軽に行ける場所、集える場所をどのように確保できるか。そうした居場所を通じて、共通の悩みを持った仲間ができ、人との距離感を学ぶこともできる。その先に社会参加がある。そのための中間支援的な場所がどうしても必要」と指摘する。


地域に開かれた家族会をめざす

昔に比べて、今は当事者・経験者による社会への発信も盛んになってきた。親の会が当事者を含めた家族会に変わってきたことも大きな変化といえる。また、地域ベースでの家族会も誕生してきており、楽の会リーラはそうした地域で芽生えている家族会に、研修を受けたピアサポーターを派遣する支援なども行っている。

市川さんは今後の活動が地域とつながる必要性について、「親の多くは60歳から70歳代。当事者の年齢も高齢化する傾向にある。生活困窮者自立支援相談窓口*2等との連携も必要であり、障害の認定や、地域包括支援センターなど、行政サービスもそれぞれの地域が窓口となる。地域の情報や人とのつながりなど、実際そこでしかできないことも多い。その一方で、『自分の家族の問題を人に知られたくない、恥ずかしい』といった心理的なハードルは高く、簡単には地域とつながれないジレンマがある」としながらも、「勇気をもって自分の家族の問題をオープンにしていってほしい。少しずつその芽はでてきている」と語る。


*1 KHJはKazoku Hikikomori Japanの略。1999年創設。ひきこもりの問題に取り組む全国的なネットワーク。全国で約60支部がある。 URL https://www.khj-h.com/

*2 生活困窮者自立支援法に基づき、各自治体において区市町村ごとに設けられている相談窓口。生活の困りごとや不安などを抱える様々な人への相談支援を行なっている。


NPO法人 楽の会リーラ

http://www.rakukai.com/

「当事者・ピア」の視点を大切にしながら、相談支援や居場所作り等を通じて、様々な事情から不登校やひきこもり、精神疾患、発達障がいなどの生きづらさを抱え、社会参加や就労が困難な状態にある都内近郊の青年期から壮年期の本人とその家族を支援している。現在約200家族が会員となっている。


キーワード不登校・ひきこもり・生きづらさ

メンバー 当事者およびその家族、ピア・経験者である支援者

活動内容 相談支援、情報提供、啓発活動、居場所作り、地域活動支援等

本人向け訪問支援、居場所作り/コミュニティカフェ、ボランティア体験

家族向け個別カウンセリング、家族月例会、親の学習会、グループ相談会

活動エリア 東京都内および近郊地域

相談 あり

集まれる場所 あり

他団体との連携 あり

連絡先 〒170-0002 東京都豊島区巣鴨3-16-12 第2塚本ビル202号室

TEL/FAX: 03-5944-5730(毎週水・金・日曜日の13時~17時)

E-mail : info@rakukai.com


*『ネットワーク』349号より(2017年8月発行)