市民社会をつくるボランタリーフォーラムTOKYO 2020

特定非営利活動法人しゅわえもん

耳の聞こえない子どもたちや、その子どもたちに関わるすべての人たちが、様々な交流を通して活躍し、成長できるための場作りや取り組みを行っている「NPO法人しゅわえもん」代表理事の野崎誠さんと運営委員の石井孝明さんにお話をうかがいました。


はじまりの物語 ~ 小さいころから交流しよう

しゅわえもんは耳の聞こえない子どものフリースクールに関わっていたメンバーが中心となって、2005年に誕生しました。耳が聞こえない子どもたちは、「耳が聞こえない」という共通点はあっても、親は聞こえる、または、聞こえないなど、家庭や生活環境は人それぞれです。ろう学校などの教育環境もまちまちです。生まれた時から手話で生活してきた人もいますし、ろう学校に入ってから初めて手話を覚える人もいます。大学や専門学校に入ってから、耳の聞こえない人と関わり始める人もいますし、聞こえない程度も違います。孤独を感じてきた人、そうでもない人の違いもあります。そうした境遇や経験の違いが、同じ「聞こえない」人たちの間を分けて、分断しているような状況があると感じて活動を始めました。

いろいろな環境の違いはありますが、小さいころから集まって学校以外の場で多様な人が交流することにより、お互いの違いを理解したり、コミュニケーションの方法などを獲得したり、お互いの状況、環境を尊重できるようになることが必要だと考えました。

また、活動に参加することで、子どもたちは、自分よりも年齢が上の人たちと交流することができます。その結果、「ロールモデル」として、ろう者である自分の将来を考えることにもつながると思います。


キャンプの代わりに今年はオンラインで交流

しゅわえもんの活動は、設立当時から様々な変遷がありますが、これまで継続して行ってきたのが、「デフメロウキャンプ」というキャンプ活動と、ろうの大人と子どもが集まって交流するイベントです。

現在、しゅわえもんには約60人以上のスタッフが関わっています。デフメロウキャンプには大学生がスタッフとして関わることが多く、それをきっかけに他の活動にも継続的に関わってくれる人もいます。

デフメロウキャンプは、夏休みの時期に、東京近郊のキャンプ場で2泊3日のキャンプを行います。参加するのは、子どもたちが30人、スタッフは16人と、毎年決まった人数で開催してきましたが、今年は残念ながら、新型コロナウイルスの影響で中止となりました。

東京ではろう学校が休校になり、オンラインによる授業となったため、キャンプの代わりに、夏休みの宿題と工作、お菓子作り、クイズなどを行う企画を実施しました。

まず最初に、Zoomの使い方を教えます。それから宿題タイム。その後に、工作をしたり、子どもたちが興味を持てる教科学習につながるようなテーマを設けて、ネットの画面を共有しながら話し合います。また、手話を使ったゲームも行いました。

オンラインの良さもありますが、やはり、集まって交流することがしゅわえもんの活動の醍醐味なので、そういう意味ではさみしいですね。

来年は、日帰りでキャンプができないかと考えています。昨年までは、企画が終わったら、スタッフは散り散りになっていましたが、今年は密に連絡を取り合ったり、オンラインで集まったりと、逆にコロナがきっかけで結束力が強まったのではないかと感じています。


絵本の世界を手話で読み聞かせ、伝える

絵本の読み聞かせを行う活動もあります。このグループには、ろうの子どもをもつ親が関わることも多いです。

聞こえない人たち同士は、多くの場合、手話でコミュニケーションをとります。話し言葉、書き言葉としての“日本語”より、手話の方がスムーズにコミュニケーションができるからです。そのため、これまで手話に比べて“日本語”が苦手だったり、“日本語”から遠ざかって暮らしてきた人もいるかと思います。そうしたことを踏まえ、小さいころから読み聞かせにより、当たり前に、絵本を読んでいく経験を重ねていけば、家庭の状況に関わらず、読書環境が整っていくのではないかと考え、スタートしました。

同じ読み聞かせでも、絵本を題材に、手話の技巧に重きを置いて伝えるというような考え方もありますが、しゅわえもんでは、あくまでも、絵本が主役であることを大事にしています。絵本は手話を学ぶツールではなく、手話で表された絵本の世界そのものに、子どもたちが触れていくことが必要なのではないかと考えています。


毎週金曜の夜は「しゅわえもんナイト」

最近、新しい取り組みとして始めたのがネットでライブ番組として放映している「しゅわえもんナイト」です。Zoomを使って放映しています。新規事業を検討するグループの中で、「大人も子どもも一緒に見て楽しめるものがほしい」という意見から生まれました。始まったきっかけは気軽なものでしたが、5月1日からスタートして現在まで25回も続いています。毎週金曜日の夜8時から40分間の放映で、内容は、絵本の読み聞かせ、クイズ、昔話や、ろう者に関するお話、詩などを語る手話語りの3本で構成しています。乳幼児も楽しめるように考えて工夫しており、人気のある企画です。視聴者は全国に100人ぐらいいて、これからもっと広げていけたらと考えています。

大変なこともありますが、小さいころからしゅわえもんの活動に参加していた子どもたちが、経験・体験を積み重ねて大きくなり、現在はスタッフとして関わってくれるようになってきました。こうしたことは、何よりもうれしいですね。

現在は、オンラインでの取り組みによって北海道から九州、沖縄まで、参加してくれる人が全国に広がりました。これまでになかったことです。これからも仲間を増やしながら、様々な形で交流していきたいと思っています。


特定非営利活動法人 しゅわえもん

〔キーワード〕耳の聞こえない子ども、ろう教育、手話、読み聞かせ

https://www.shuwaemon.org/

「耳が聞こえない」という共通点はあっても、家庭や生活環境、ろう学校を始めとする教育環境などがまちまちである子どもたちが「一堂に会して交流し、様々な経験をし、コミュニケーションの方法を獲得しながら、境遇の違いを超えてお互いを尊重できるようになれるといい」という考えから、2005年に設立。「デフメロウキャンプ」と呼ばれるキャンプ活動や「しゅわえもんナイト」というオンライン配信の企画・イベントなどを行っている。団体名の由来は、「手話」+「ドラえもん」。ドラえもんのポケットからは、夢あふれる様々な道具が出てくるため、「夢がたくさん出てくる」「夢を実現させる」という希望を込めて名づけられた。


メンバー 耳の聞こえない子どもたち、その子どもたちに関わる様々な人たち

活動内容 キャンプ活動、オンラインによる交流・イベントなど

活動エリア 東京他

相談 あり

集まれる場所 あり

*『ネットワーク』369号より(2020年12月発行)