学校と地域と一緒につくろう
福祉教育・ボランティア学習

「参画のはしご」と市民学習推進段階チャート

福祉教育・ボランティア学習と「参画のはしご」


福祉教育やボランティア学習をすすめていく上で、世の中で起こるさまざまな現象について関心をもつこと、そしてそれらに対して主体的・積極的に関わっていくことは、学びをより豊かにしていく上で欠くことのできない姿勢・態度です。その主体的な物事への関与について、子どもの立場からその大切さを考える理論として、かねてから知られているものがロジャー・ハート(Roger.A.Hart:1950年~)によって提起された「参画のはしご:ladder of participation」です。


これは、イギリス出身でアメリカ合衆国の地理学者で環境教育の専門家で、同時に子ども・青年の社会参加に関して理論的な発信を続けているロジャー・ハートが1990年代後半から提唱している考え方で、日本における総合的な学習の時間(総合的な探究の時間)における重要な視点として紹介され、さらに社会活動や地域参加の基本的視点としてもよく触れられているものです。


「参画のはしご」は、子どもが物事に関わっていく態度に関して、ハートは子どもが社会のさまざまなことがらに参画していくことを「人の人生や人が暮らすコミュニティの生活に影響を与える意思決定を共有するプロセス」ととらえ、その過程をあたかもはしごを下から上に登っていくことに準えて、発展性のあるものとして考えました。その過程は大きく8つの段階に分かれます。

参画のはしご

最も初期の段階は「操り参画」と表現され、大人に指示されるままにいわば仕方な状況に参加している状態です。次いで「お飾りの参画」の段階ではみんなが加わっているので自分も参加するというようないわば付和雷同の参画です。そしてとにかく参加しておくという「形だけの参画」によって、参加は主体性をともなわない形式だけの参画に終始します。ハートはここまでは「参加」の段階にはないと考えます。そして、さらにその上の段階として、自分たちにあたえられた役割は何かを理解して参画する段階を経て、大人が促せば子どもが自分の意見をいういうことができるようになる参画の段階がやってきます。さらにその段階を経ると次に大人が記又ことに子どもも主体性をもって(自分から積極的に)関わる参画の形態が実現します。その段階を経験するとやがて子どもは大人が決めたことではなく自分たち(子ども自身)が決めることによってなされる子ども主導の活動展開が可能になります。ここでは大人の関与は後景に退いていきます。そして最終的には子どもが意思決定し、展開していく活動に大人も巻き込んでいく段階がやってきます。これが真の子ども主体の参画であるとハートは考えました。


ハートのこのモデルには原型があり、社会学者のアーンステイン(Sherry Phyllis Arnstein:1930年~1997年)の「市民参加のはしご:ladder of citizen participation」がもとになっているといわれます。このことを考えると、福祉教育やボランティア学習を「総合的な学習の時間」や「総合的な探究の時間」において取り組んでいくことが、やがては自らが属する社会の改善や発展に向けて主体的に取り組む市民参加の資質を形成していくことにつながるといえるでしょう。



福祉教育・ボランティア学習推進段階チャート


東京ボランティア・市民活動センターでは、ハートの「参画のはしご」やアーンスタインの「市民参加のはしご」をもとに、福祉教育やボランティア学習を学校と地域が協働して取り組むうえで、自分たちの関係性(学校と地域:社会福祉協議会や市民活動団体とのパートナーシップのあり方)を「現在地」を知るためのチャートを検討してみました。


このチャートでは、学校とパートナー(社会福祉協議会、ボランティアセンター、市民活動団体など)が相互に自分たちの関係がどの段階にあるかを知るためのツールとして活用していただくことを想定して作成を試みたものです。


第0段階:まだお互いに相手先のことをよく知らないが、子どもたちに何かを伝えたい、知らせたいという思いや願いは萌している段階です。ここで思い切って電話やメールを出して、「こんにちは、こちら〇〇ですが、こんなことで話を聞いてもらえますか」と何をやりたいか、何を知らせたいかを伝えてみましょう。

第1段階:お互いに存在を認識したら、特に具体的な要件がなくても(あれは是非とも)、定期的に連絡をとりあってみましょう。

第2段階:何かを始めることで話が煮詰まってきたら、対面での話し合いを設定したり、オンラインで会議をもったりして、やれそうなことについていろいろとアイデアをだしていきましょう。

第3段階:活動のねらい、時間や場所、内容を決めて具体的に活動を展開してみましょう。

第4段階:活動に関する協力関係を経験したら、お互いのねらいが達成できたかを確かめて、課題を明らかにして計画をよりよいものにしていきましょう。

第5段階:活動を向上させていくうえで必要となるいろいろな資源(資金、人財、スキル、進め方のノウハウ)を共有するようにしましょう。

第6段階:これまでの活動を評価して、新たな目標を立ててみましょう。

第7段階:これまでの活動の中で意義が感じられたものを、さまざまなメディア(SNSや広報誌・紙など)を通じて発信していきましょう。


この各段階において、できれば第3段階くらいから子どもの意見を取り入れながら、だんだんに子どもの意見を中心に計画の中身を検討していくスタイルに変えていき、次第に子ども中心の意思決定を重視するようにしていけると参画の主体性がより明確になっていくことでしょう。


ただし、このチャートの評価欄においては、それぞれの段階が完全にできていなければ次に段階に行けないというわけでなく、ある程度できたと感じられたら、後に戻って修正することも含めて、前に進めていく姿勢を心がけるとよいと思います。



参考文献

1)ロジャー・ハート,(木下勇,田中治彦,南博文監修)『子どもの参画 - コミュニティづくりと身近な環境ケアへの参画のための理論と実際』,2000年,萌文社.

2)Arnstein, P.S. :A Ladder of Community Participation. Journal of the American Institute of Planners, 35, 1969, 216-224.


(文責 瀧澤利行/茨城大学)